甘やかな夜の底 ページ10
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宿泊用に斎木が用意した部屋はおどろおどろしいほどに豪奢で、煌びやかで、広い。
がらんとしてしずかなその空間に――――わたしたちは、身を沈める。
「ええとこ泊まってるんやな」
照明を落とし、闇に溺れる。
点けっぱなしだったテレビも、足下の間接照明も。
頼るのは、青白い、月明かりのみ。
暗がりに視界が閉ざされれば、その気配をより濃密に感じた。
胸に、肩に、背後から回る腕。
その二本はわたしの身体を縛り上げるように、熱い体温と、ほんのり香るマルボロのにおいが肌に食い込んでいく。
「シャワー、浴びてないよ」
わたしは言った。
首筋から耳へとたどる舌に、吐息が震えた。
「いらん」
わざとらしく――耳裏に押しつけられた鼻、女のにおいする、とつぶやく声。
片手がドレスの上から腰をなぞり、またもう片手は、わたしの手を握りしめている。
まるで、逃さないと言わんばかりに。
うなじの骨をなめられ、内臓がざわついた。
ふと正面の姿見に目が行く。
囚われたわたし、そんなわたしを射抜くように見つめる、まっすぐな目の、きれいな顔の――――…
「…………た」
鏡越しのまなざしが、わずかに揺れる。
「安田…………章大」
わたしはこの男のことを知っていた。
今、気がついた。
どこかで見たことがある顔だと思っていた、まさかとは思ったが。
このひとは、妹が応援しているアイドルグループの。
「なんや、俺のこと知っとったん？」
彼は悪戯っぽく笑った。
白くてまるい前歯――わたしの耳たぶを、ピアスごときつめに甘噛みして――舌先でなぞって。
「……集中して」
ささやかれる、低い声。
「今、いらんこと考えんで」
引き寄せられれば、唇が合わさる。
栓をするような、重なるだけの。
角度を変え、もう一度。
もう一度、さらにまたもう一度重なろうとするその唇から、わたしはそっと顔を背けた。
「キスは……好きじゃない」
刹那、彼が吹き出すように微笑んだ。
ほとんど吐息のような、ふっとこぼれたような、やわらかい笑みだった。
「ふうん」
そうして、ちらりと赤い舌をのぞかせ、挑発するように口端をなめた、冷たい、それでいてどこか面白がるような、目。
「自分、意外と生意気なこと言うんやな？」
清潔なシーツと、薫り立つ闇と。
深過ぎる夜は、甘やかな熱に埋もれていく。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
