第六話 使い魔召喚の儀 ページ17
だけど名付き使い魔ってことは、かつて誰かの元で偉業をなした使い魔であるということだ。
｢先生は、この子の名前を知ってますか？｣
｢ええ、ゼータです｣
｢凄い、カッコいい名前……｣
｢その子はかつて〈黒の魔女〉に仕えた使い魔です。何の文献にも載っていないので、誰も知りませんが。その子が出てきたということは、ルキア嬢、あなたは確かに〈黒の魔女〉の血を受け継いでいるのでしょうね｣
｢…………｣
黒の魔女。世界一悪い魔女。
この子が、まさかご先祖様に仕えていた使い魔だったとは思わず、私はただただ驚き、肩のカラスに視線を落とした。
｢どんなに優れた使い魔を使役していても、その力を引き出せるかは主人次第です。逆にどんなに小さい使い魔であっても、しっかりと心を通わせ特徴を熟知していれば、かけがえのないパートナーになってくれます。あなたは使い魔を格で判断することなく、自分の使い魔にすると即答した。……自信を持って生物魔法に励みなさい。きっとその子は応えてくれますよ｣
｢……はいっ！｣
ユアン先生は頷き、チョコレートの箱をレジに持っていく。
皇子様なのに偉そうな素振りもなく優しいし、言葉が心に響く良い先生だ。
｢あれ？ でもなぜユアン先生は、何の文献にも載ってない使い魔の名前を知ってるのかな。生物魔法学の先生ってなると、色々調べて辿り着くのかな……｣
よいしょ、と木材を抱え直しながら、私はちょっとした疑問を抱いたのだった。
島の端にあるアトリエ群は、通称 “クリスタルのアトリエ” と呼ばれている。
なぜならこのアトリエ群は、棚状の断崖にはめ込まれた形で点々と存在する、クリスタルで作られた施設だからだ。多様な形と色をしていて、とても面白い。
ここは生徒達が自由に使えるのだか、最近は中心部にもっと使い勝手の良いアトリエ群ができたとかで、この辺りの古いアトリエは人気がないらしい。
だが中心部のアトリエは上級生がたくさんいるので、私はこちらに巣箱を作りに来た。
｢少し使い勝手が悪いくらいが、魔術師のアトリエっぽいのにね｣
確かに人の気配はないが、私が入った水色の瓶型のアトリエには、男子生徒が一人いて、作業机に向かって黙々と何かしている。
どうしよう、別のアトリエにしようかな……
｢あのー｣
とりあえず声をかけると男子は私に気がつき、作業用のゴーグルを額まで上げた。細いオレンジ色の前髪を、適当に挟み込んで。
｢あ｣
右目が青、左目が紫のオッドアイの瞳―――
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2019年12月19日 17時
