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「沖田隊長、Aちゃんと花火見に行ったらどうです?」
――隊士にそんな提案をされたのは、夏祭りの数日前のことだった。
***
隣できゃあきゃあと子供のように目を輝かせてはしゃぐAの姿を、沖田は花火の音をBGMにずっと眺めていた。
(こっちも、悪かねェな)
猫のような金色に変化した瞳を見せる彼女は神秘的で、そしてそんな、彼女が隠しているであろう姿を今は自分だけが見ているという状況に沖田は満足する。
こうして彼女が秘密の姿を見せることを自分に許すようになった、それに喜びを覚えるのは惚れた以上仕方の無いことだ。そのまま彼女の"特別"に自分がなればいいと望むことの何が悪いと言うのだろう。
沖田は悪びれもせずに独占欲で胸の内を満たしながら、花火などそっちのけで楽しそうなAを見つめ続ける。
Aが花火を見たがっている、そんなことを口にしていたと隊士の一人に教えられて連れてきたが、なるほどそれは正解であったらしい。沖田は提案を受け入れて良かったと思う反面、あの「沖田隊長を応援しよう委員会」のハチマキを着けた隊士の姿に少々げんなりもする。恐らく屯所に戻れば成果を聞きたがっている大勢の隊士に質問攻めに遭うのだろう。正直な所、彼は放っておけと叫びたい一心である。
「あ、終わっちゃった」
少し残念そうなAの声で、沖田は花火が終わったことを知った。実の所、彼は途中から音など聞こえていなかったのだ。
「んじゃ、帰るかィ」
瓦屋根の上で上手くバランスを取りながら立ち上がると、Aも慌てて立ち上がり、
「あの、隊長」
と遠慮がちに声をかけた。沖田が目線だけよこすと、Aは少し視線を彷徨わせる。暗がりの為沖田には見えなかったが、その頬はほんのりと桃色に染まっていた。
「わざわざ連れてきてくれて、ありがとうございました。花火、ずっと見てみたかったから、すごく嬉しかったです」
ふわりとはにかんだAに、どくりと沖田の心臓が脈打った。どんな敵相手でも揺らがなかった沖田を揺らがせるという偉業を為しているとは思ってもいないAは、「良ければなんですけど」と恥ずかしげに、しかし意を決した目で沖田を見上げる。
「来年も、また一緒に見てもいいですか?」
「ッ……」
思わせぶりな台詞に他意が無いことなど学習していても、沖田の体温は上昇した。それを誤魔化すように顔を背けた彼は、ただ一言こう言った。
「……気が向いたらな」
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霜夜華(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!受験お疲れ様です(^o^)頑張ります! (2019年2月17日 18時) (レス) id: 64f91c64f2 (このIDを非表示/違反報告)
りん - お久しぶりです!受験でしばらく来れてなかったんですけど更新されてて…凄く嬉しいです!!読んでて進展しててドキドキしました!これからも応援しています。 (2019年2月17日 14時) (レス) id: 0f485d2f15 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 内田さん» おおお勢いのあるコメントありがとうございます!(*´∀`)頑張ります! (2019年1月18日 10時) (レス) id: af44df98e2 (このIDを非表示/違反報告)
内田(プロフ) - すごく好きです!!!!更新頑張ってください!! (2019年1月16日 18時) (レス) id: 2320622f76 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - かぼちゃんさん» ありがとうございます!のろのろ更新ですが頑張ります! (2018年9月23日 20時) (レス) id: 64f91c64f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜華 | 作成日時:2018年1月8日 10時