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頸動脈。それは切ってしまえば、普通の人間ならばまず死に至る血管である。
それを、助けるためとはいえ簡単に切ってしまったAの行為は、自己犠牲の精神というモノで片付けられるようなレベルではない。
大量の血が必要とはいえ、幾ら何でもやりすぎだ。
「……死んでも構わないと思ってんですかィ。それとも、すぐ治るから良いとでも思ってんですかィ」
衝撃を受けたのを悟られないように、沖田は出来るだけ抑えた声で尋ねる。だが近藤は沖田の衝撃を理解しているのか、やりきれないような表情で首を横に振った。
「分からねェ。…ただ、自分の事を軽く見過ぎてんのは確かだろうな。
けど、あの子が傷付くと分かってて利用してる俺はもっと酷ェし……。その上、最低だ」
「………。
…あんたが自分からあいつを使うとは思えやせん。あいつから、言い出したんじゃねェですかィ」
「だとしても、俺がAちゃんを利用してる事実は変わらねェ」
呟き、近藤は沖田を見て苦笑した。
「…怒ってんな、総悟」
険しい表情をしたまま、沖田はそっぽを向く。
「怒ってやせん。……あんたには」
「Aちゃんには怒ってんのか?」
「………」
無言は肯定の現れだった。近藤は「あんま責めないでやってくれ」と沖田を宥めようとする。
「止めきれなかったのは、俺の責任だ。助けられる方法を持ってる奴を傷付けねェために、誰かを死なせるなんて間違ってると言われて、何も言えなかった。
いつ自分で命を絶ってしまってもおかしくない状態だったあの子を放っとく事なんざ出来なくて、結局黙認しちまった。
…もっといい方法があったかもしれねェのにな」
険しい顔をしていた沖田の体はピクリと反応し、驚いた目を近藤に向ける。
「……死のうとした?あいつが?」
「あぁ。両親を死なせたっていう負い目からな」
近藤は視線を落とし、深く息を吐いた。
「三年前の、丁度今頃だった。
Aちゃんは、道端で死にかけてる男を自分の血を使って助けたらしいんだ。でもそいつは人身売買に関わる奴でな。
そいつはAちゃんが希少な雷獣の末裔であることを見抜いて――…。
母親を殺し、あの子と、天人だった父親をさらって売ろうとした。父親は密輸船に乗せられそうになったその時、命を投げ打ってAちゃんを逃がしたらしい。
あの子はそれを、ずっと後悔してんだ。…今も、な」
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伽那 - 一言で言うとこれめっちゃ好き (2019年11月26日 22時) (レス) id: dad38348f0 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 沖田総悟さん» ありがとうございます!!もう!受験早く終われ!!!(泣)じわじわ更新ですが頑張ります! (2018年1月5日 8時) (レス) id: 3282eb2821 (このIDを非表示/違反報告)
沖田総悟 - とっても面白かったです!!キュンキュンもするし、見ながら泣きました‥。更新がんばってください!そして、受験ガンバってくださいね!!応援してます!! (2018年1月4日 19時) (レス) id: b86e1fcd7d (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - にんじん さん» あぁありがとうございます!!(泣)あと9日なんですよねー……ハハ。頑張ります! (2018年1月4日 14時) (レス) id: e79ecf6629 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - 受験頑張ってください!応援してます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 1018656ff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜華 | 作成日時:2017年9月29日 20時