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*
その短い言葉には、寂しさのようなものが含まれていた。
どうしてそんな声をするのか。そこが気になったけど、無駄に詮索して怪しまれても困るし――そう思った、時。
二口さんは、ぽつりと話しはじめた。
「けっこーさ、長い付き合いの……そういうヤツが、この村にいたんだよ」
それは、二口さんの大切な人だったんですか。
そんなことを聞くのは憚られた。
「口数は少なかったけどさー。でも喋んなくても、なんとなく思ってることわかってたっていうか。とにかく、俺はソイツのことを一番知ってるつもりでいた訳よ」
私達は、黙っていた。
「でもさ。ある日、突然姿を消したんだ」
星空が本当に綺麗だった。
この星空の中で、きっと彼は、ずっと。
「……眉なしのでっかいやつ。お前らが、この先も旅を続けるんならさ」
「…………」
「もしソイツに会ったら、言ってやってくれよ」
二口さんはいつの間にか、背を向けていた。
多分彼は、中に戻ったらまた生意気な笑顔で、いつものように村の人々と接する。
「『一回くらい帰ってこい！』って、さ」
背中は辛そうだった。
*
その晩は泊めてもらえることになった。舞さんが部屋の支度を整えてくれている間に、影山さんと短い会話を交わした。
「どうする」
「どうするって、もう決めてるんじゃないですか」
それもそうだな、と軽く頷く。
「朝、6時にメシが出るらしい」
「はい」
「その2時間前なら、誰も起きてない」
「……そうですね」
どうする、と影山さんは再び私に尋ねた。
俺はそうするけど、A、お前はどうする？
言外にそう訊いていた。この村をもし出てしまったなら、もう二度とあたたかいご飯に巡り逢えないかもしれない。ふかふかのベッドで、寝られないかもしれない。
人のあたたかさに、触れられないかもしれない。
でも。それでも。
「どうするって、そうするんですよ」
笑ってみせた。
「だって、影山さんがいないなら意味ないですもん」
それから軽く視線を合わせて――舞さんの呼ぶ声に返事しながら、私は彼と別れた。
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年8月1日 18時
