【FHQ】荒野往く旅路【影山飛雄】 (ページ8)

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「ふーっ……」

ひさびさにきちんと吸う外の空気は澄んでいた。もわっと暑いことは暑いんだけど、中のこもった熱気に比べたら涼しい。

影山さんはたらふく食って眠そうだった。食ったら寝るってあなた、……とても弓の名人には、

「…………いや」

そこまで思ってやめた。やめよう、考えるのは。今はこんなことを考える時じゃない。

憧れの背中も、寂しそうな横顔も、不満の声も、惨い仕打ちも、……今は、今だけは忘れよう。

「影山さん」

「……ん」

「このあと、どうしますか」

だからそれだけ尋ねた。影山さんは少し考えて、今さっき出てきた裏口を見つめる。

「……Aは、どうしたい」

そんなことを聞かれるなんて思ってもなかった。急にドキドキする。

影山さんが私に「どうしたいか」と聞くなんて、それは、

……それはやっぱり、旅を始めたからだろうか。

でも。そんな風に嬉しく思っても、私の考えと気持ちは何も変わらない。

「私は、影山さんについて行きますから」

完全に閉まっていない裏口から、いいにおいがしてくる。

「影山さんが、どうしたいかで決めてください」

彼は黙った。影山さんなりに考えているんだろうな、と思う。

夜は明かりがほとんどない村。小さな村とは言ったけれど、はじめて見渡すその村は、けっこう広かった。

明かりがほとんどない。だから、見上げると――満天の星空がそこに広がっていた。

これほど穏やかな気持ちで星空を見上げたことはない。空を仰ぐときはいつも、不安で押しつぶされそうになった時、現実逃避のためだった。

綺麗だな、と思った。その時背後に気配がして――考えるより先に振り返っていた。

「やっぱここにいたんだな」

そこにいたのは、着替えた二口さんだった。わざわざ探しにきたらしいのかと思うとまだ緊張する。

影山さんも、無表情だけどその目は鋭かった。

「お前らさー、どっちの方から来たの？」

「…………北の方、です」

「そっかー」

影山さんの咄嗟の嘘を思い出しながら答えると、二口さんは間延びした声でそう言った。

何が聞きたいんだろう、と思っていると。

「……じゃ、その師匠のトコを出てから……誰かに会ったりしたか？」

想定外の質問だった。私がぎょっとしている間に、影山さんが首を振る。

「いや、誰にも会ってないっス」

「……そっか」

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