【FHQ】荒野往く旅路【影山飛雄】 (ページ43)

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*

「研磨さーん」

「…………」

「け、ん、ま、さーん。寝ちゃいましたか」

返事はない。どうやら本当にお休み中のようだった。

俯いている上にフードが深くて表情が見えなかったから確認したけど、反応はまるでナシ。ヒナガラスだけが器用に杖の上に乗っていた。

研磨さんも相手にならないとなると、やけに寂しく退屈に感じられた。誰も話し相手がいない、しかも自分は動けないとなると暇ったらない。

影山さん探してみようなか、と一瞬だけ思ったけど、まさか寝ている研磨さんを一人にするわけにもいかないし。それ以前に自分動けないからな今。

「さて……」

モンスターの気配はない。また、散り散りになっているはずの仲間の気配も。

――なら、いいだろうか。

「…………ねえ、君」

私は、目の前にいる相手に話しかけた(・・・・・・・・・・・・・・)。

ソレは応じないが、構わず続ける。

「思い出したんだよ、私。城の最上階の存在を」

地下の次に薄暗い場所。夏だろうが冬だろうが関係なく、いつでも不気味にひんやりとしていた。誰かが、そこに呪文でもかけているみたいに。

「あとね、文献も。ヒナガラス(おまえ)は――」

続きの言葉を放った。私が口を閉じたあとも、ヒナガラスはその目で私をじっと見ている。

目は逸らさなかった。いや、逸らせなかった。ここにいまそれがあるという事実がどこか空虚で、目を逸らせばなくなりそうな気がしたから。

ヒナガラスは数秒後、飄々として飛び立っていった。

空っぽになった研磨さんの杖の上には、まだ、……何かが残っているような錯覚を覚えた。

*

「俺たちがいま参上したッ！」

「命令通りにやって来たッ！」

「「ウェーイッ!!」」

「…………」

自信満々の赤い瞳。できることなら会いたくなかった相手。

研磨さんが横になっているのをいいことに、杖をひったくって立ち上がる。そしてそのまま見据えた二人の姿。

できることなら会いたくなかった。

「…………ご無沙汰してました」

「おッ？誰かと思ったらAじゃねえか！」

「なんだ、元気にしてたか？久しぶりだな！」

「ええ、まあ、ハイ……」

曖昧に答える。危うく自分の立場というものを忘れそうだけど――私がおかしいのか、それとも彼らの基準がズレているのか。

そこまで考えるのも無駄だと悟って、私は諦めて口を開いた。

「お久しぶりです。――田中さん、西谷さん」

*