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*
「お引き取り下さ〜い」
「「…………」」
休憩のためか馬を降りていたその人は、これ見よがしに水筒を掲げて悪びれずにそう言った。……底意地悪そう。
でも、これで諦める私達じゃない。諦めの悪さだけは一級品だ。
「少し……少しだけでいい。余ってるもの、なにか」
「正体も知れない旅人にハイどうぞってあげられると思うの？」
「…………駄目か」
それでも相性の悪そうな彼に根気強く頼む影山さんだったけど、相手は一向に意見を変えない。
やっぱり考えが浅はかだったか……そう思った時、もう一頭の馬から降りてきた人がいた。
「まあまあツッキー。困ってるみたいだし、少しくらいいいんじゃない？」
「……山口」
あ、優しそうな人来てくれた。ラッキー？
「そんなんでまかり通ると思ってんの。村だってまだ距離あるデショ」
「でも、二人とも困ってるみたいだよ」
「だからって、見ず知らずの他人にあげられる余裕なんて最初っからないんだから」
ツッキーさんという人は頑固というか、意地が悪いというか……その点山口さんは少しでもよくしてくれようとしているみたいで、ありがたいことこの上ない。
「こうやって頼んでくれてるんだから、ね」
「……じゃあ君、頭下げられるの？」
「「…………は？」」
図らずとも声がハモった。ポカンとする私達に、ツッキーさんは続けて言う。
「少なくとも頼みたいんなら頭くらい下げるべきだよね。それすらできないのにそうやってんの？ 頭下げたら考えてやんなくもないけど」
「ちょっとツッキー……」
ぐっ、と影山さんが躊躇う気配がした。
だよなぁ……この人は「人にものを頼む」のが極端に下手だ。だって大王にも頭下げようとしなかったもの……そんなの城じゅう探してもアンタだけだった……。
というわけで影山さんがめっちゃ嫌そうな顔をするものだから、「あ、やっぱりできないんだぁ？」とツッキーさんはまた煽る。私はこっそり弓を移動させた。
「じゃあ駄目だね、お引き取り下さ〜い」
「…………」
「ほら山口、急ぐよ」
「わ、わかったよ……」
山口さんだけは最後まで名残惜しそうにしていたけれど、もらえなかったものはしょうがない。
二人と馬の一行が馬車を引いて立ち去るのを、私達はぽつんと突っ立って見送った。
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年8月1日 18時
