【ハイキュー!!】会へらくもおのづから【鎌先靖志】 (ページ10)

今日:13 hit、昨日:0 hit、合計:5,377 hit

10 ページ10

*

「……え、」

そう声を出したのは、みこちゃんだった。

わたしたちは一瞬顔を見合わせてから、彼女の方を見た。みこちゃんは二人の視線を浴びて驚いていたけれど、もう一度、小声で言う。

「いいん……ですか。わたしの方があとだったのに」

「あー、まあ気にすんな。ちょっとの差だよ」

「…………」

みこちゃんは少し考えて。それから、おずおずとくちびるを動かした。

「あ、ありがとう……ございます」

「いいっていいって」

かっかと笑う鎌先さんは、やっぱり優しい。ポシェットからかわいいお財布を出したみこちゃんは、わたしと目が合うと照れくさそうに笑った。

「あ、少し遅くなっちゃったけど、時間大丈夫だった？」

「ううん……まだ大丈夫。おかあさんにも電話するから」

「そっか。それなら」

「あのね、お姉ちゃん」

ん？と、幼い彼女の目を見る。

鎌先さんは、横で羊羹を眺めていた。後で試食くらい出してもいいかしら、とつい考える。

みこちゃんは、言いにくそうにした後、小さな声でぽそりと呟いた。

「あ、ありがとうって……言って、くれるかな」

「……でも、さっき自分で」

「ううん……わたし、ちょっとはずかしいから」

思わず笑みが零れた。

ちゃんと伝えておくね、と彼女にだけ聞こえる声で言うと、うんと頷いて紙袋を受け取る。

みこちゃんは、扉を閉める前に、ぺこりと頭を下げていった。それを見届けて、扉が閉まったのを確認すると、ぱっちりと鎌先さんと目が合った。

「……行っちゃいましたね」

「ああ……見舞いか何かなのか？」

「おばあちゃんが入院してるんです。それで、お見舞いをここでいつも買っていってくれて」

みこちゃんのおばあちゃんは、わたしがまだ幼い頃からここの常連だった。少しずつ病気が進行して、入院をする時に、みこちゃんに言ってくれたらしい。

『おばあちゃんが、ここのもなかが食べたいって』

勿論別のお菓子の時もある。その場合はみこちゃんセレクトで、それでも喜んでくれるらしいけれど、やっぱりもなかが一番だと優しく笑ってくれる。

そんな素敵なおばあちゃんだ。

「……もなか、譲らないのは一緒かな」

「ん、何か言ったか？」

「いえ。あ、羊羹少しお出ししますか？」

「いいのか？」

おまけです、と言うと、実はさっきから気になってんだよなと答える鎌先さんがおかしい。

そろそろ一人前に商売できるかしら、と思いながら、羊羹の包みをひとつ手にとった。

*