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*


「……じゃあ、あと少しってこと?」

「そうね……もうちょっとだけ、待っててもらえるかしら」

「うん、わかった」


お父さんがせっせともなかを作っている横で、お母さんが笑う。わたしはそれに軽く頷いて、どことなく甘い匂いがする空間を出た。

ふと、店に出る一歩手前で立ち止まる。

わたしがみこちゃんに言って、中に入ってから数分。その間、二人は――。


「…………」


嫌な予感がして、そのまま暖簾をくぐった。

やっぱり、予想通り。みこちゃんは店の隅で俯いたままだし、鎌先さんはわたしと目が合うと困ったような顔をした。

小声で言う。


「……なぁ、やっぱり俺怖がられてんのか」

「……ですか、ねぇ……」

「だよなぁ……」

「でも、大丈夫ですよ」


え? と怪訝そうにする彼に、わたしは自信をもって言えた。


「みこちゃん、人見知りなだけですから――きっと、すぐに打ち解けます」


ねえみこちゃ、と声をかけようとしたけれど、相変わらずそっぽを向いていた。

……駄目かな。


「……ちょっとみこちゃんがちっちゃすぎて、大きく見えるだけですから」

「……無理にフォローしなくてもいいからな」

「いえ……」


まあ無茶にとは言わねえよ、ただ気まずいと呟く鎌先さんに、不意におかしさが込み上げてきた。

笑ってしまうのを何とか堪えて、変な声が出てしまった。ますます怪訝そうな鎌先さんに、何でもないです、と苦し紛れに伝える。


今、二人の壁がなくなったとしても、あまり意味はないけど。

ただ、消えるものならすっと消えてくれると、……少しだけ、わたしが嬉しくなる気がする。


*


もなかできたわよー、と声がかかって取りにいくと、すでに二人分が袋詰めされていた。


「遅くなってすみませんって、ちゃんと伝えるのよ」

「はい」


どうやらお母さんは、お客さんが大人の人だと思っているらしい。あとでネタばらししようかな、しない方がいいかな、と考えながら、紙袋を二つ持って戻る。

みこちゃんは、わたしの持っている紙袋を見てぱっと顔を明るくさせた。待たせてごめんね。


「ええと、じゃあお会計は……」

「あ、俺は後でいいわ」

「……え、」


*

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設定タグ:ハイキュー!! , 鎌先靖志 , 伊達工業   
作品ジャンル:ラブコメ
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時

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