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「どうしたの、みこちゃん」
「えっと……」
金曜日に来るなんて珍しい。かと思ったら、みこちゃんはそこに立ち止まったままもじもじしている。
しっかり者のみこちゃんらしくない、意外だなと――そこで気がついた。
みこちゃん、人見知りじゃなかったっけ?
最初に店番で会った時、みこちゃんは同じ場所で同じように固まっていた。わたしもどうしていいかわからなくて固まっていたから、微妙な沈黙が長いこと『もがみや』の中を支配していたことになる。
結局、いいタイミングでお母さんが出てきて「あらあみこちゃん!」と彼女の警戒心を解いた。それからはすぐに今の関係になって――うん、じゃあどうしようか。
今はそれだけが問題。
「み、みこちゃん」
残念ながら、わたしはお母さんのように即効性の何かを持っていない。けど、やれるだけやってみようと思ったのだ。
それに何より、鎌先さんがいる。……いや、彼がいるからみこちゃん固まってるんだけど。
「今日もお見舞い?」
「は、はい……」
軽く頷くみこちゃん。わたしはカウンターの中から出て、みこちゃんの元に歩み寄った。
固まっている彼女の肩にそっと触れて、前にしゃがみ込む。
みこちゃんは、何やらハッとした表情になった。
「大丈夫。安心して」
「あ、あの、わたし、」
「うん」
警戒と緊張の紐を、ゆっくりと解いていく。
自分の紐はうまく解けないし、時には固くなっていくだけだけど、他人の紐ならうまくいくんじゃないかって。
大丈夫。安心して。お店の常連の、怖そうに見えるけど優しいお兄さんだから。
「おばあちゃん、今日はもなかがいいって……」
「いつもの? ごめんね、粒あんもちょっと待ってもらうことになるけど――」
「ううん、そうじゃないの」
え?
思いもよらぬ否定に目を丸くしていると、みこちゃんはポシェットの紐をぎゅっと握って、探るように言った。
「おばあちゃん、あの、前に食べた……」
「……うん」
「白あんの、もなかが、また食べたいって」
白あんのもなか。
その優しい響きが幼いくちびるから飛び出したとき、わたしも、思わず感嘆の息を漏らしていた。
……偶然。でも、きっとただの偶然じゃない。
「うん。――わかった、少しだけ待っててね」
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時