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「おーす」
声がして、音がして、わたしは伝票を繰っていた手を止めた。よっ、と手を上げながら店の中に足を踏み入れる鎌先さんに、思わず笑みが零れる。
「先週の団子、美味かった」
「それならよかったです」
押しつけたみたいでしたけど、と肩を竦めたら商売だろとフォローされた。存外、彼の優しさはこういうところにある。
「みたらしと胡麻、どうですか」
「調子乗ってんな」
「商売ですから」
悪気なく笑ってみせる。……こうした、会話を楽しむ余裕も少しずつだけど生まれてきた。
先週、色々話せたこと。今日、こうして向かい合えること。ちょっとしたことが嬉しいと思って、火曜日と金曜日は足取りもつい軽くなる。
勿論、鎌先さんも部活があるだろうし、何より遠回りして来てくださっているから、そう毎週毎週会うことはないけれど。
でも、希望もちょっとくらい必要でしょ?
「あ、今日もなかまだ出てないんですよ。朝の注文に追われちゃって……もう少し待っていただくかもしれないんですけど」
「何分くらいなんだ?」
「えっと、三十分もかからないと思います」
「なら待つか」
来たのに手ぶらで帰れねえし。そう彼は言う。
ホッとしていた。今日は金曜日、今週はまだ鎌先さんは来ていないんだと悟ったんだけど、朝ご飯の時に「今日は大福と饅頭の注文が多いから、もなかは出さないかもしれない」なんてお母さんが言っていて。
慌てて「もなかないと困る人いるかもよ!?」と言って止めた。渋い顔をするお母さんに、早朝から仕込みをしているおじいちゃんのところまで行って説得。夕方過ぎにちょっとだけ出すか、までこぎつけたのは登校時間ギリギリだった。
何をやっているんだろうと思ったけれど、でも、こうして来て待ってくれる人がいる。偶然にしろ、結構いい勘だったよ。
そして、丁度いい機会だし、それとなく遠回りの理由を聞こうと――口を開きかけた時。
ガラリ、と扉が開いた。
一瞬見えなくて、鎌先さんの陰かしらと思って角度を変えて見た。
すると。
「……あ、あの……」
立っていたのは、みこちゃんだった。
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時