【ハイキュー!!】会へらくもおのづから【鎌先靖志】 (ページ4)

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「お」

それは、どうしようもなく都合のいい想像通りのことで。一瞬反応が遅れたけれど、それもしょうがないんじゃないか。

立っていたのは彼だった。目が合って、「お」と呟く。

「今日は店番なんだな」

少し遅れて、やっと我に返ったわたしは頷いた。

「は……はい。いらっしゃいませ」

「悪いな、外うるさくて」

「いえ……」

微かに首を振ってから、言われる前にもなかの3個入りを持ってくる。

これで大丈夫ですよね、と確認をとると、「ありがとな」と短いお礼。それにさえも、わずかに緊張する。

いつものように代金を受け取って、紙袋を渡して、――ふと、魔が差した。

財布を仕舞おうとする彼に、どうしてだかわたしは声をかけていた。

「あの、……部活の人、とかですか？」

驚いたように動きを止める彼に、慌てて付け足す。

「その、ジャージ着てらっしゃるので」

伊達工業、って。緑と灰色のジャージを着ていた彼は、「ああ」と自分の身体を見下ろした。

「普段は一人なんだけどな。今日はあいつらと用事があって」

「そう……なんですか」

「ああ、そんで――」

「鎌先さーん！」

言葉が途切れたのは、外から一際大きな声がしたから。

「げ」と顔をしかめて振り向いた彼の先には、何人か男子高校生が見えた。

「遅いですよー、早くしてくださーい」

「こらっ二口！近所迷惑でしょ！」

「…………」

はぁ、とため息をついて、彼は少し嫌そうな顔をしながら出口に向かう。

途中でまた、前みたいに振り返って――「ごめんな、また来るよ」とだけ言って、あとは輪の中に入りながら扉を閉めて行った。

「少しくらい待てねぇのかよテメェは」

「茂庭さんもう行っちゃいましょ、鎌先さん置いていきましょう」

「はぁ……」

「まーた喧嘩してんのかよ」

「鎌先さんが悪……痛い青根痛い！」

ガヤガヤと喋りながら、賑やかな集団はあっという間に遠ざかってしまった。

しばらくして、箒を持って外へ出てみた。もちろん彼らの背中など見えなかったけれど、黙って落ち葉をはらう。

その途中で、ふと手を動かすのをやめて。

ぽつり、とつぶやいてみた。

「…………かまさきさん、か」

偶然といえば偶然。あの人が叫ばなければわからなかった名前。

こうして、彼は「鎌先さん」になった。……ちなみに、漢字を知ったのは、もう少し後のことだった。

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