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*
「……どうしよう」
店番を終えて、着替えて、二階の自分の部屋に戻って。
机に向かって数学のワークを開いてから、つい呟いた。
どうしようって、何を? 答えはアルバイトを。彼のことを。
名前も知る訳ないし、ただ長い一週間のうちのたった数分顔を合わせるだけの彼。
ただの「ちょっと変わったお客さん」だった彼のことが、さっき、ついさっき、あんな笑顔を見たことで気になっている。
……いや、気にしてたのはずっと前からだ。
気にしてなかったら、箱を取ってもらってドキドキしたりなんかしないし、急に話し掛けられて動揺したりなんか絶対にしない。
「……どうしよう」
悩んだのは、目の前の因数分解にじゃなくて。
彼は、わたしがアルバイトを始める前からお店に来ていたのかを、お母さんに聞こうとして――。
でも、結局諦めてシャープペンを拾った。
*
その次の週、わたしが彼に会うことはなかった。
仕方がない。わたしが店先に立つのは、前にも説明したけれど火曜日と金曜日だけだ。月木は塾があるから帰りも遅い。
水曜日は別に無理じゃないけれど、急に増やすと言っても不審に思われそうで怖い。
そもそも、お母さんは最初わたしが店番を嫌がったのを知っている。
だから、再び顔を合わせたのは翌々週。金曜日のことだった。
相変わらずぼーっと店番をしていて、奥からお父さんとお祖父ちゃんの話し声が聞こえるな、なんて聞こえないのに聞き耳を立てていた。
すると突然、店の外が騒がしくなった。
するのは大人数の気配。お客さん、……お客さん? と背筋を伸ばしたところに、声が聞こえてくる。
店の外から。
「茂庭さんも何か言ってくださいよー」
「何で俺なの……」
「そうだ、あんまり茂庭ばっか頼りすぎんなよ」
「鎌先さんには言われたくないですね!」
そういえば、と思い出す。
この近くにはいくつか高校があるけれど、伊達工業高校が一番近い。工業高校だからか男子生徒が多いのだ。
緑のブレザーはよく見かける。姿は確認できないけど、外を歩いている集団が伊達工の人達、っていう予想はあながち間違ってないんじゃないかな。
と、思った時。
「あ、俺ココ寄るから」
「……おばあちゃんが入院でもしてるんですか?」
「違えよ」
「いいから行っといでよ鎌ち」
「おー、サンキュな」
まさかね、なんて一瞬都合のいい想像をして、いやいやそんなはずは、と首を振ったところで扉が開いた。
*
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時