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*


「…………あれ」


火曜日。

学校から帰ってきて、お母さんと交代で店に入った。お母さんはだいたいを伝言メモで置いておいてくれるから、それを見て。

いつもと同じように箱が積まれているはずだった。でも、今日だけは違う。


いつもはもなかの箱がある場所に、今日は横から大福の箱が詰められていた。

まるで、何もなくなった場所を埋めるみたいに。


「えっと、」


慌ててメモに視線を戻す。……あった。読み飛ばしていた文字。


"もなか こし・つぶ・しろ 午前中に完売
しろあん3個入のみ一箱カウンター下"


すぐにカウンターの下を覗いていた。あった、ちゃんと。

お母さんがわざわざそれだけ置いてくれていたことを、深読みするのは考えすぎかもしれないけど。


安心するのと共に、どこか、変な予感みたいなものがあった。


*


「うーす」


扉を開けた鎌先さんの姿を見て、思わず膝から崩れ落ちそうになった。「どうした!?」と慌てる彼に首を振る。

一箱しかないもなかを、誰かが求めてくるかもしれなかった。もちろん今日必ず鎌先さんがくるというわけではなかったけれど、もし来てくれた時に「売り切れです」と言わなきゃならないかと思うと。


「本当に良かったです……」

「お、おう……よくわかんねぇけど」


いつもの、と言う彼に頷いて、カウンターの下から箱を出す。紙袋も一緒に。


「今日、これで最後だったんです」

「マジか。ラッキーだったんだな」

「はい。……だから、お渡しできなかったらどうしようかと思って」


まるで「待っていました」と言っているようだと気づいて恥ずかしくなったけど、鎌先さんは笑って「ありがとな」と言ってくれた。

お金をぴったり受け取って、紙袋を渡す――渡そうとした時。


扉の開く音がして、わたし達はそちらに視線を向けた。

そこにいたのは息を弾ませたみこちゃんで。「みこちゃん、」――わたしが、そう声をかけようとした時。


「おねえちゃん!」


先に声を出したのはみこちゃんだった。いつもの倍くらい明るい声で、明るい顔で。


「あのね、おばあちゃん……」


それは。


「おばあちゃん、今日は白あんのもなかがいいって!」


――ああ、駄目だ。


紙袋を渡した腕の力が、ふっと抜けていった。


*

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設定タグ:ハイキュー!! , 鎌先靖志 , 伊達工業   
作品ジャンル:ラブコメ
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時

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