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それから数秒が経った。目を見開いて突っ立ったままのわたしに、鎌先さんは怪訝そうに訊いてきた。
「……大丈夫か?」
そこでやっと我に返る。すみませんっ、と頭を下げた。
「えっと、その……反応が遅れてしまって」
「いやいいんだよ、平気ならそれで」
「あ、ありがとうございます……な、なにぶん、」
パニックだったんだと思う。本音はするりと口から滑り落ちていた。
「お久し振り、だった、ものですから……」
「…………」
「…………」
やだ気まずい。やだ。わたしのせいだ。
慌てて顔を上げて、鎌先さんを見る。
「とっとりあえず、中入りますかっ」
「あ、いや、いいのか? 箒……」
「平気です! お客様第一ですから」
「それならいいんだけど」
少し落ち着こう。春の七草でも数えよう。そうやって混乱しているのかなんなのか、よくわからないことを考えながら扉を開ける。
カラカラ、と音があるはずだったんだけど。
「……大丈夫か?」
「……たぶん、へいき、です……」
立て付けの悪い『もがみや』の扉は、たまにつっかえる。そんなことも忘れて勢いのまま扉を開けてしまって、それはそれは嫌な音を立てた。
……わたし、大人になってお金が貯まったら、とりあえずこの扉だけでも工事したい……。
焦りながら急ぎながら、とりあえずいつもの位置まで戻ることができた。ふう、と再び安堵したのも束の間、鎌先さんが話す。
「そういえば、先週会わなかったな」
素朴で素っ気ない、ただの世間話をするような口調だった。
会わなかった、って。
確かにそれはその通りなんだけど、でももっと前からだったら会うこともあんまりなかったはずなのに。最近になって、ようやくよく会えるようになったから。
気にしてるのは、私だけだと思ってた。
「……先週は、」
気がつけば、考えずに言葉が先に出ていた。ん、と首を動かした鎌先さんと目が合う。
「先週は、ちょっと……体調を、崩してしまって」
「……大丈夫だったのか?」
「あ、もう平気なんですけど、それで先週は母がずっと店番を」
それでか、と納得した声を聞いて、少し躊躇ったけど。
「……でも、会えなかったの、ちょっと悔しいです」
何がなのかとか、何になのかとか、全然自分じゃ言葉にできなかったけど。
今日があるからチャラだと、とすぐに言ってくれた鎌先さんに、思わず胸が高鳴った。
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時