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*
見込みが甘かった。
砂糖の分量を間違えた和菓子よりも、甘くてそして重かったと思う。
「あらぁ……」
玄関を開けてわたしの姿を見るなり、お母さんはそう間抜けな声を出した。ありゃあ、とか、まあ、とかなんとか。色々を通り越して、感心しちゃってるんじゃないの?
「……お母さ、」
「A、傘なかったの?」
「……忘れた」
「途中まで入れてくれた友達とかは?」
「……時間帯が悪かったんです」
はれまあ、と、どうやら呆れているようで。とりあえず鞄を置いて、靴を脱がずに渡されたタオルで髪を拭う。
我が家の玄関は広い。ああ、ごめん、お父さん。お父さんの大事な革靴濡れちゃったよ。
「お母さん、わたしあの」
「とりあえずお風呂沸かすから――制服脱いで、洗濯機回しなさい」
「あの……」
「明日までに乾くかしらね……乾かなかったら、夏服でもいいから着て行きなさいよ。寒そうだけど」
「お母さん!!」
「ん?」
ようやく話を聞く姿勢になったお母さんに、わたしは強い気持ちを込めて言った――
――いや、言おうとしていた。
「今日のみせば、は、はっくしゅん!!」
ただ、実際に伝えられたのは風邪を引いているってことだけ。
……だった。
*
「……やばい」
お風呂に入って温まったかと思ったけど、いざ出て着替えると寒気がした。
お母さんから真顔で渡された体温計を脇にはさむ。……嫌な予感、やっぱり的中。
「まだ平熱だけど……安静にしてないと、たぶんこれから熱出るわよ」
「はい……」
「宿題とかないの?」
「数学のワーク……」
「ああ、まあそれくらいなら朝友達に見せてもらいなさい」
「…………」
わたしの母は心底雑だと思います。この人があんなに繊細な生菓子作ってるなんて、信じらんない。
部屋のベッドでぼんやりした頭のまま横になっていたら、いつの間にかお母さんは出て行っていた。たぶん、今日の店番はお母さんになる。
お母さんに、なる。
「…………」
黙って寝返りを打った。
誰のせいにもしたくないし、自分のせいともいえるし、いえないし。
でも……でも。
チャンスを、この手で逃がしてしまった。
*
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スマトラ島のラフレシア(プロフ) - 北海道産のトラさん» そんな感謝される程のことではありません……ありがとうございます! (2016年10月1日 21時) (レス) id: db820b405d (このIDを非表示/違反報告)
北海道産のトラ(プロフ) - 良く書けていて凄いと思いました!この作品を書いてくださりありがとうございます (2016年9月30日 23時) (レス) id: cbf7b05fce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年6月30日 18時