約束──9 ページ9
「……ここか」
Aは、そっとため息をつく。
ここは本当に広い。
いくらこんたろうに見取り図を見せてもらい、暗記したと言え、大広間へ行くだけでも大移動だ。
あれ、こんざえもんだったかと、彼女は小首を傾げたが、一向に思い出せないのでもういいやと、早急に匙を投げた。
そんなことよりも、問題は彼らとどうコミニュケーションをとるかだ。
早速入ろうと大広間の襖の前に立てば、グサリとやられるだろう。
『もう、いっそのこと、わざと斬られてみよう』
それが、普段熟考することのないAが2分間ほど考えて出した、精一杯の答えである。
一般人であれば正気を疑うだろうが、何を隠そう彼女は狼女なのだ。
鉛の弾丸を心臓に打ち込まれさえしなければ死なない。しかし彼女は不死身と言われている人魚とのハーフのため、それも克服している。
つまり不老不死である。
だからこのままグダグタしているよりは、進んだほうが絶対に良いだろう。
案ずるより産むが易し、とAが襖に手をかけた、その時だった。
ひゅるると、空を切るような音がしたかと思うと、……ぐちゃり。
襖を突き破って、刀が私の脳天を貫いた。
しかしその刀を見て、ん？と思う。
なにか引っかかる。
頭上を見上げ刀の鍔が見えたその瞬間、その「何か」の正体に気づいて、私は思わず悲鳴をあげた。
「きゃあああぁぁぁ！！」
それが断末魔の叫びに聴こえたのだろう。
「殺ったか……」
と言う声が中から聞こえてきたが、私は殺られていない。
…………別に頭に刀が刺さったから叫んだんじゃない。
その刀が、私の愛しの彼のものだったから、嬉しさのあまり悲鳴をあげてしまったのだ。
ああ、もう我慢できない。
斬りかかられようが刺されようが、もう構わない。
私は頭に刺さっていた彼の刀を抜き、手に持って大広間の中へと飛び込んだ。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
