約束──31 ページ31
それからAはおもむろに立ち上がると、茂みを後にした。
だが、
「……。」
これからどうするべきかと、一人廊下で暫く思案していた。
刀剣男士たちからは特に何をしろとは言われていないし、かと言ってこれ以上手入れをすると身体が持ちそうにない。
と、そこで、Aはあることを思い出した。
──辛くなったら俺の部屋へ来てください。……いつまでも、待っていますから──
長谷部が、そう悲しそうに、嬉しそうに微笑んでいったその言葉が、Aの心をキュッと締め付ける。
それは、何が悲しいのかわかってあげられない自分の無力さへの自己嫌悪や、その明らかな好意に対するうれしさの現れであった。
そして同時に、Aは長谷部のその悲しみを取り除いてあげたいと切望した。
「……行こう。」
本丸につく前に教えてもらった長谷部の部屋の位置を思い出しながら、ゆくっりと歩き始める。
ギッ
ギッ……。
と、軋んだ音を立てる床をそっと歩いていく。
Aはここもいつかは新しくせねばな、なんて考えた。
……目的の部屋につくと彼女は「長谷部くん」、と声をかけた。
少しの静寂の後、ふすまが人一人分ほど開かれた。
入っていいということだと解釈したAが、部屋に足を踏み入れた途端───。
ぐぃっ
「……わっ、ぷ」
軽く手を引かれ、その予想もしていなかった出来事になすすべもなく長谷部の方へ倒れ込む。
「……えと、はせべくん？」
ぎゅっとAを抱え込むようなその体制から動こうとしない彼に、彼女の戸惑うような視線が揺れる。
しかしその頬と耳がじわりと熱を帯びて紅潮しているのを、長谷部は知っていた。
「……ごめん、なさい」
長谷部はそれだけいうと、またぎゅっと、更に強い力でAを抱きしめる。
震えた声の謝罪に、彼女はすべてを察した。
「あの約束」のことだと──。
それは、遠い昔に交わした約束。
許されない約束。
二人の、永遠の秘密。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
