約束──4 ページ4
「……誰もいないのか？」
異様なほどの静けさに、Aは思わず呟いた。
そう、こんのすけからの指南によるとこの本丸には百数振りの刀剣達がいるらしい。
それならば喋り声や物音の一つ二つはしてきそうなものだが、先程からそれがまったくないのだ。
その言葉に、すかさずこんのすけが答える。
「そんなはずはないのですが……本丸に行くまでの間に、新しい審神者の方がいらっしゃるのでそこでお待ち下さいと伝えておきましたので」
「……ん？『本丸に行くまでの間に』？……それならば、彼らには先程知らされたばかりということだよな。…まさか了承を得てこなかったとは言うまいな？」
「あ〜。まぁ……」
こんのすけはバツが悪そうに語尾を濁し、Aからすっと目を逸らした。
Aは頭がキリキリと痛んできた。
最悪一言も話せぬままザシュッと首をはねられる可能性だってある。
……だがまぁ、こんのすけの慌て顔が見られたのだから、頑張るとするか、とAはこんのすけをちらりとみた。
……こんのすけは正直で良い子らしい。
先程の誤魔化しを気にしているのか、きょどきょどと視線を迷わせてはわたわたと慌てている。
うん、やはり愛らしい。
管狐たちが審神者たちのサポート役として選ばれるのは、その可愛い容姿で初任の者たちの緊張を癒やすためだろうか。
そんな事を考えながら視線をずらし、顔を上げる。
「私は無愛想だし、本当に本丸の立て直しなんてできるのだろうか…」
思わず、そう呟いてしまう。
いくら意思を固めたといえど、やはりそう簡単に自分の感情を左右することは難しいようである。
それを聞いたこんのすけは、その柔そうな耳をしゅんと垂れさせて言う。
「すみません……当日から本丸に住むというのは、A様にも、彼らにも急な話でしたよね…」
うん、かわいい。
内心頬を緩ませるのだが、表には出さずに彼女は言う。
「弱音を吐いてすまない。これは私が、私の意志で了承したことだ。其方たちを救うこと。そして……いや、それだけは約束しよう」
Aはどさくさにまぎれてこんのすけのふわふわした頭にポンっと軽く手をおいた。
「A様ぁ……！」
遂に泣き出すこんのすけ。
しかしAはそれが嬉し涙と呼ばれるものだと知っていたので、こんのすけを優しく抱き上げ微笑んだ。
そして──
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
