約束──30 ページ30
痛い。
痛い。
痛い。
乱藤四郎を再顕現したときからずっと感じていた刺すような痛みは、いつの間にか鈍くとどまり続けるようになっていた。
鐘がなるように、ぐわんぐわんと響く。
やっとの思いで、Aは茂みの先の池へとたどり着いた。
生茂る草を背に、半ばもたれ掛かるようにしてずるずるとほとりに座りこむ。
休むことなく粟田口全員を一度に手入れしたからか、もう、立っている気力も体力もなかった。
「っ、はぁ、は、……」
荒い呼吸をくり返す。
落ち着こうとすればするほど、痛みに意識が向いてしまう。
こんなこと今までなかった。
これは、不味い。
「っあ、ぐっ」
わからない。
今までどうやって息をしていた？
半ばパニックになっている頭で考えても、余計に感覚がつかめなくなるだけだった。
ああ、息ができない
苦しい。
お願い。
だれか……。
無意識のうちに言葉が溢れる。
「っは、せべ…く…」
ガサガサッ!!!
「大丈夫ですか!!」
誰かが茂みを無理やりかき分けるようにして飛び出してくる。
Aの後ろにいるため姿は見えない。
それにいまのAには、悠長に顔などを見ている暇などなかった。
彼はそっと彼女に寄り添い、ゆっくりと優しく背中をさする。
「!!!、っあ……」
遠い昔、長谷部にこうして背をさすってもらった記憶がありありとAの目に浮かんだ。
今、この手も私を慰めてくれている。
ぎこちなく遠慮がちに、でも、優しい手。
それに身を任せていたら、Aは次第に痛みを感じなくなった。
それと同時に、呼吸も整ってくる。
「…ありがとう。もう大丈夫だよ。」
未だ俯きながら、Aはそう言った。
「っ!」
相手が息を呑んだ音が聞こえた。
しばしの沈黙の後、平静を装ったような声が通る。
「…いいえ。お気になさらず。もう大丈夫なようなら……俺は戻りますね」
「うん」
すっと立ち上がる気配がしたと思うと、かれは足早にここを去っていった。
「ありがとう。────────。」
そっと助けてくれた彼の名を呟く。
「……」
その声音は、風に乗って彼へと届いたか。
はたまた、池の水に飲み込まれ深くへ沈んだか。
どっちでもいい、とAは思った。
─やっぱり、あれはきっと長谷部くんじゃない。
でも、私を救ってくれた救世主だから。─
と。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
