約束──28 ページ28
どうやら、乱藤四郎の顕現はうまく行ったようだ。
兄弟たちと楽しそうに話している彼には「夢」でみたようなどこか陰りのある笑みはみえず、心の底から笑みを浮かべているようだ。
「ふぅ、……っ!？」
無事に成功した安堵感から思わず息をついたその瞬間、鋭い痛みがAの頭を襲う。
しかし、その原因を探る間に数秒でそれは収まった。
代わりに、身体に響くようなだるさと目眩が押し寄せる。
「……？…？」
ジクジクとした痛みを堪えながらも、Aはそれ以上考えることはしなかった。
……いや、できなかった、というのが正しいか。
そう、一期一振が近づいてきていたのだ。
(非力な所は見せない……私の利用価値を、示さなければ……!!本丸の皆を、長谷部くんを救わないと…!!)
粟田口を取り纏める兄、一期一振。
今此処で弱った姿を見せ、役立たずというレッテルを貼られてしまえば自分はもうお払い箱だ。
そう思ったAは、常に無表情な仮面を被っていなければならなかったのだ。
「っ……、……どうかしたのか？」
「……その。申し訳ありませんでした。私はあなたを誤解していたようです。」
そういってすっと頭を下げる一期。
その所作は流石といったところか、一糸の乱れもなかった。
「……そなたは弟たちを護りたいが故に行動した。ならば謝る必要などない。」
微笑んで一期の頭に手を置こうとしたが、先程睨まれたことを思い出しそっと下におろした。
「……っ」
「……すまない。……他の者たちも手入れさせてもらってもいいか」
「…っええ、勿論です。よろしくお願いします。」
一期は邪魔にならないようにと一歩下がり、手入れを始めたAをただ見つめていた。
だんだん慣れてきたのか、乱ほど重症ではないからか、はたまた別の理由からか……。
心なしかAが手入れを行うスピードが、急に早くなった気がした。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
