約束──25 ページ25
「……!？」
聞き返すよりも先に、彼女に覆いかぶさるような影が落ちた。
向き合って話していたAと三振りだったがその後ろにまた別の人物が現れたからである。
「どうしたのぉ、乱チャン……あれ、キミは……っ」
あるじさん、と呼ばれたその人物は驚いたように目を見開いた。
「……たいしょ、その時が来たみたいたぜ」
陰があるような表情で笑う薬研。
「……そっ、か…」
周りを纏う重い空気に乱はようやく不安そうな顔を見せた。
「どうしたの、あるじさんまで……なんだかみんな怖いよ……」
「…大丈夫。何も怖いことはないよ。……乱は此処にいちゃいけないんだ」
「っなんで、ボクのこと、キライなの……？」
大粒の雨ような涙を目にためる乱に、困ったように眉尻を下げる一期の代わりにAは優しく諭した。
「……兄弟たちは、今頃乱が目を覚ますのを必死に祈っているのだ。私と一緒に、来てくれないか」
「っしらない!!そんなこと、ボクは知らない!!」
「…本当は、わかってるだろう?……私達が、『夢の中の存在』だってこと」
一期一振は息を深く吸い込んでから、そう言った。
「いやだっ、やっと、幸せを見つけたのに…っ」
「……俺っちは、乱と生きれて幸せだったぜ。…でも、本物の薬研藤四郎は違う。乱がいないと、幸せになんかなれないだろ?」
「……薬研の言うとおりです。私のせいで、乱や本物の兄弟たちの幸せを奪いたくない」
握りしめた拳から、布の擦れる力強い音がした。
一期一振はやはり笑みを浮かべたままだったが、その瞳の中には何処か縋るような視線が入り混じっていた。
「私達は、乱の本心が聞きたい」
「ッ!!…っボクは、ボクは……っ!!!」
ぽたりと、雫が白に落ちて消えていく。
──みんなに会いたい、消え入るような声でそう呟いたのを聞いて、彼等は満足気に頷きそっと乱の背中を押した。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
