約束──21 ページ21
ボクは何故かあるじさんのお気に入りの玩具(おもちゃ)のようで、お風呂やお手入れはあんまりさせてもらえないものの他の子達のように殴られたことは一度もない。
……いっそのこと、ボクのことも殴ってくれればいいのに。
何度そう思っただろう。
自分だけ五体満足で、皆が傷付いていくのをただ傍観しているだけ……なんて、耐えられないよ…。
…ボクには兄弟しかいないのに。
……『兄弟』という事実だけが、ボクの存在する意味なのに…。
兄弟たちに何もしないでほしいと、あるじさんに伝えたこともあったけど、「僕はキミの苦しそうなカオも好きだなっ」などと言われより一層酷くなるばかりだった。
そんな風に眉をひそめるボクに気づいているのかいないのか、あるじさんは唇を三日月形に描いた。
「んもー、やぁ〜っと来た!」
「……ごめんねあるじさん、ちょっと夕陽を見てたんだ」
「へー…あっ!そうだ、いつものじゃなくて、今日は見せたい物があって呼んだんだっ!」
あるじさんはそう言って、背後の扉の取っ手へと手を伸ばした。
「見せたいもの…？」
あそこは審神者専用の部屋で、あるじさんの霊力を使わないと入ることも出ることもできない場所だ。
「この部屋がなにか……っ！！」
薄暗い部屋の中心に、手足を固定されて嗚咽を漏らしていたのは…
五虎退、だった。
「んーっ、その顔〜！！絶望感と驚きの入り混じったその感じ！…乱チャンって、ほんっといい顔するよねぇ〜」
そんなあるじさんの言葉も聞こえないくらいに、ボクは目の前で笑うその人間に、怒りを覚えていた。
歴史を守るボクらを傷つけることは、歴史を壊すのと同じこと。
なら、人間はボクたちの敵…だよね？
「っ！」
その短刀──乱藤四郎を勢いよく振りかざしたその時。
「こら、いけないなぁ」
その人は、ボロボロでぐったりと頭を垂れる五虎退の首筋に手をかけた。
キラリと刃先を光らせた短刀よりも小さい何かがその手に握られているのを見て、ボクはピタリと動きを止めた。
「…僕を手にかけるなんて、乱チャンも大胆になったもんだねぇ。…でも生憎、清楚な子が好きなんだよね、僕」
「…あ、ご、ごめんなさっ……」
はっと我に返ったボクの目に涙が浮かぶのを横目に、あるじさんは変わらず笑みを浮かべるばかりだった。
「ちょっとお仕置きが必要だね。……そうだなぁ、キミは優ししい子だから…」
五虎退を刀壊しようか──。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 124人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
