約束──2 ページ2
「それは、なんでも良いのか?」
「物資や金銭の補助から人探しまで、幅広い望みを叶えられます!…あ、でも流石に「魔法使いになりたい!!」とかは無理です」
じゃあ、私の願いも叶えてくれるか──Aはそう呟くと、その柔らかい唇で言の葉を紡ぐ。
「……彼を、探してほしい」
「『彼』…とは?」
管狐はこてんと首を傾げる。
可愛い、と思いながら説明する。
「彼は私の想い人──」
「なるほど、でしたら……」
「……その願いを叶えることはできません」
管狐はそう真剣な顔つきで、酷く鋭く言った。
「…何故だ。人探しもすると言ったではないか」
怒りからか、はたまた悲しさからか、彼女は眉をひそめて問う。
それでも管狐は怯むことも、先程の言葉を撤回することもなかった。
「彼が……人ではないからです。」
は、と思わず言葉にならない声が漏れる。
先程まで見えていたあたりの風景も、聞こえていた風の音も、ぜんぶわかんなくなって、ぐるぐると混ざり合う。
じゃあ、今までどんな気持ちで私と話していたのだろう。
何を思って、一緒に笑っていたのだろう。
自分が似たような境遇なだけに、溢れ出る思いの欠片が自分に刺さる。
今までの彼との時間を全否定されたような気がして、どうしようもないくらいに心臓が苦しくなった。
「どうして、…」
「…刀剣男士なのです、彼は。」
「とうけん…だんし…じゃあ、審神者になって会えば…！」
管狐は悲しそうにふるふると首を横に振る。
「いくら審神者不足といえど、少なくとも本丸は数十万はあります。仮に見つけられたとしても、審神者以外の人間と顔を合わせることはほぼありません。彼の主はその本丸の審神者のみ。…顕現とは、そういう一種の契約に相違ないのです」
「っ、…そう、か…教えてくれてありがとう。件の話は…少し、考えさせてほしい」
「…はい。勿論です。もしお心を決められたのなら、何方にせよこの番号に連絡をお願いします」
管狐はそう言うとしゃらん、と音を立てて姿を消した。
…まだ、ほのかに正体の分からない華の香りが鼻腔を突き刺すように漂っていた。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
