約束──1 ページ1
「…今日は雨が降りそうだ」
ふと指を濡らした水の感覚に、一人の少女が空を見上げてそう呟いた。
そう、その時だった。
「あのぉ…。ちょっと宜しいでしょうか…？」
…人間ではないなにかに喋りかけられたのは。
「…おぬしは…？」
「…はっ、突然すみません。貴方様の霊力がとても膨大でしたので…どうか刀剣男士たちと本丸を救うため、審神者となってはいただけませんか!？」
人の言葉を話すおぬしは何者だ、と問いかけたかったのだが、どうやら別の意味に捉えられたようで見知らぬ単語がつらつらと並ぶ。
「…急にそんな事言われても分からないぞ？ちゃんと説明してくれ。…キミの正体もな」
「はっ、はわわっ、そうでした!!えっと、まずわたくしは管狐というものでして…」
その管狐とやらは、時間遡行軍が過去への攻撃をしているということ、時の政府により刀の付喪神を顕現し、それらの敵を倒す命令が下されたということ、
…そして、……前任の審神者により、本丸の秩序は崩壊したということを聞かされた。
「…要するに、私が審神者になれ、と?」
「はい。平たく言ってしまえばそうです。」
「断らせてもら…」
「そこをなんとか!!なにか望みがあればできる限り叶えさせていただきますのでぇ〜!」
管狐は私の言葉に覆い被せるようにそういうと、ずざざーっと、頭を擦りむくんじゃないかと言う勢いでスライディング土下座をした。
「……」
ちら、と薄目を開けてこちらをみやると、きゅるんと瞳を潤ませる。
困ったものだとAは苦笑した。幸か不幸か、彼女は動物が大好きなのだ。
やがて、観念したようにかなりの間のあとに口を開いた。
「…………わかった。」
「本当ですか！？」
先程とは打って変わって顔を綻ばせる管狐に、つられてAも微笑んだ。
「では、お名前を教えてください！」
「ああ、名は正式なものではないのだが……Aだ。」
彼女の「正式ではない」という言葉に首を傾げるも、詳しく聞かず管狐はお礼を告げた。
…ふと先程言っていた言葉をAは思い出し、問いかける。
「そういえば望みを叶えると言っていたが、どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。審神者不足が著しいので、政府は人材を逃したくないらしいです」
「それで望みを叶える代わりに素質ある者を審神者にさせるってわけですよ」と、何処から取り出したのか、油揚げを頬張りながら管狐が言った。
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作者名：茜月 | 作成日時：2022年4月8日 16時
