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手元に咲く淡い色の花に顔を近付け香りを嗅ぐと、からっぽな悪魔の心はほんの少し幸せな気持ちになります。
花は誰も傷付けません。ただそよそよと風に身を任せ、くすくす笑うように花びらを揺らすだけです。
悪魔は人差し指の先でやさしく花びらを撫でて、可愛いね、と呟きました。
目を閉じて風に乗ってくる花の香りを吸い込むと、素敵な空気で胸がいっぱいになるようで悪魔は嬉しくなります。
時折ほんの少しだけ強めに吹く風に髪を撫でられるのが心地良くて、その風に触れようと手を伸ばしたら一匹の蝶が指先で羽を休めました。
どれくらい花や蝶を眺めてのんびりしていたのか、まだ太陽は上の方にありましたが風が冷たく感じたので悪魔はお城に戻ることにしました。
また来るね、と花たちに声を掛けて元来た道を歩いていきます。
お城に帰る途中の森の中、木漏れ日で少しだけ森が明るくなるところで悪魔は人間の気配を感じました。
どこにいるかはわからないけれど、近くにいる。そんな気がして辺りを見回すと、樫の木の葉が手招きするように揺れていました。
ゆっくり近付きながら目を凝らすとそこには男が倒れていて、久し振りに人間を見た悪魔は思わず声を掛けました。
「何してるの」
男は木陰で横たわったまま小さくうずくまり、苦しそうな表情で浅く速い呼吸を繰り返していました。体の下には血溜まりが出来ていて、どうやら足を怪我しているようでした。
放っておいたらきっと死んでしまうな。悪魔は、そう思いました。助けても良いのかな、とも思いました。
男の側にしゃがんで、汗で濡れた前髪をそっと避けると険しく顰めた眉とぎゅっと閉じた瞼が見えました。
すると男の片方の目がほんの少し開いて、悪魔を見ました。男は悪魔に驚いたり、大きな声を上げたりしませんでした。
それだけの気力がなかったわけではなく、助かるために我慢したわけでもありません。
男は、自分を覗き込む悪魔の姿をただ、うつくしいなあと思っただけでした。
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7oh(プロフ) - タルトコさん» タルトコさん、コメントありがとうございます！幸せな気持ちになってもらえてよかった…！こういうのどうなんだろうとか、個人的には好きな世界観だけどこれまでのを読んでくれている人には刺さるのかどうかとかちょっと悩んだりしましたｗこちらこそありがとうですよ！ (2020年7月13日 1時) (
レス) id: 886f4a5b1d (このIDを非表示/違反報告)
タルトコ(プロフ) - こんばんは。恐れられる程の美貌でありながら無垢な心を持つ悪魔の可愛らしさ！悪魔だけれど天使のようなその笑顔に男は心が温かくなり、その温かい眼差しで悪魔は幸せを感じて…と素敵な無限ループを想像しつつ眠れる私もまた幸せです。ありがとうございました。 (2020年7月12日 2時) (レス) id: 276045d76c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：7oh
| 作成日時：2020年7月11日 19時
