【レトルト】女装男子系実況者【男主】 (ページ32)

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そして、冒頭の台詞に戻る。

「ちょ、ちょっちょっちょっとおおっ！！！」

「うるせえレトルト何だよ」

「俺こんなの聞いてないんだけどっ？！」

お客さんがいることも忘れてAに詰め寄れば、へらへらと笑うAの横にいたキヨくんがびっくりしたように俺に尋ねた。

「えっレトさん聞いてなかったの？」

「…き、聞いてないよこんなの……」

ニコ生のコメントでは俺が焦ってるだのと女神サマ可愛いだのと流れているが知ったこっちゃない。
こっちは本当に何も聞かされてなかったのだから。

「俺がスタッフさんにレトルトに内緒にしてって頼んだんだよ」

「は…？」

「何も知らされてないレトルトの間抜けヅラが拝みたかっ…「女神サマこれ終わったら腹パンの刑ね」

俺に登場を内緒にしていたのは実に実にくだらない理由だった。許さない。

会場からどっと笑いが上がる。俺別に漫才してるつもりはないんやけど。
横でそわそわしていたキヨくんが、突然何を思ったかAにこう言った。

「なあなあ女神サマ！さっきのコールで一番声大きかったの誰？」

なんだキヨくんは。
自分が一番声がでかかったとでも言ってもらいたいのか……
Aはその言葉に、ううんと何か悩む素振りをしてから口を開く。

「やあーっぱキヨかな。マイク使ってたし」

「よっしゃっ！！！！ねっ！ご褒美頂戴ご褒美！」

何を言い出すかと思えばご褒美…？
会場のお客さんも、ニコ生のコメントもざわつきだし、Aの答えを待っている。
ぶっちゃけ早く進めたいんだけどなー俺的には。

「んー、ご褒美ねえ………よしキヨ。
マスク外して後ろ向け。カメラさん撮さないでねー」

「うぃっす」

言われたとおりにキヨくんは後ろを向きマスクを外す。ちなみにキヨくんはすごく美形だ。鼻高いし唇の形も綺麗だし。所謂イケメンだ、羨ましい身長か顔分けてくれんかなあ。

Aはとても楽しそうに後ろを向いたキヨくんに屈めと命じる。屈んだキヨくんの横に立ち、そしてーーー

Aがキヨくんの頬にキスをした。
黄色い歓声が会場からも、コメントからも飛ぶ。
嬉しそうに頬を染めたキヨくんと、それを見つめるAを見ていたら、少し、胸が痛くなった。

なんでかな、ずきりと痛むその胸の叫びを必死に無視する。きっと認めたら自分の中の何かが変わってしまうから。

自覚したくない感情に蓋をして、俺は笑顔で台本通りの言葉を吐く。
盛り上がった会場とは裏腹に、俺の心は沈んでいった。