�� ページ8
彼の縋るような視線がこちらに突き刺さる。
きゅうと寄せられた眉が頑張って涙を堰き止めていた。水の膜を張った蜂蜜色の瞳が綺麗で、思わず頬に手を当てる。何の疑いもせずに閉じられた瞼によってポロリと涙が溢れた。隈をなぞるようにして拭えば、身体を抱きしめられて肩口に目元を当てられる。
「いつも見ていた背中が突然骨になったら思っていたよりも小さくて驚いてしまいますよね」
「う゛ん」
「あの優しい声も、手も、表情も、全部なくなったなんて信じられないし」
「ん゛」
「今もまだ居るんじゃないかって錯覚してしまう」
しゃくりあげる彼の背中を擦りながら話しかける。言っていることに嘘はない。こちらの世界の母親も父親もまがい物だとは知っていたが過ごしていれば情が湧くのが人間というものだ。たとえあちらが文面上の人間に過ぎないとしても、私はきちんとした感情を持っていたから。
泣いたとき特有のガラガラ声と生来のダミ声が混ざった変な声が時々相槌を打った。強くなる腕の力に一瞬息が詰まったけれどそれ以外に何ら問題はなかった。彼が変なリズムになった呼吸を引きずりながらまた話し始める。
「兄さんが跡継ぎで俺はスペア」
「そんなに上背もない俺はあの人ほど強くはなれなかったし、勉強とかの方が楽しくて好きだった」
「今だって父様たちは騎士の存在意義を肯定し続けてる。兄さんは火砲によって亡くなったっていうのに、ずっと」
「舞踏会だって、兄さんが主役だったところを突然俺が主役になったんだ。安泰が欲しいんだって、次の世代を育てるって息巻いてる」
「A、俺、おれ」
会うの2回目の私に言う話じゃないよね？機密事項なんじゃないの？友達とか作れないんだよな多分、この話から行くとお兄さんが心の拠り所だった的な感じ。私のことを呼ばれても一介の平民に出来ることなんてないんだけど。
でもこれは媚が成功しているということである。ここからなんとかして結婚に持っていきたい。舞踏会での競争率は単純計算で倍、男が二分の一になったからね。意地でも舞踏会に出て、そこできりやんに求婚してもらう。こらが今のベストだろう。
「私は貴方と会うのまだ2回目だけど、貴方自身のことが結構好きだよ」
「辛い中でいっぱいいっぱいになっているのにお兄さんのことを気遣えたり、後の世のことを考えられるのってとてもできないことだから」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ポム | 作成日時：2024年2月25日 1時
