【щт】without【kr】 (ページ5)

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Ⅴ ページ5

音を置いてけぼりにした彼からようやく声が漏れる。

「最近東の方から火砲が入ってきたらしいんだ」

「俺の家は由緒正しい騎士の家。火砲という最新技術を取り入れようとしないウチは廃れていくのみ」

「でも領民の生活くらいはなんとか保ってやりたくて」

　

　この王子思っているよりも状況が読めているようだ。私は過去の知識バリバリに存在してるから騎士が没落していくことを知っている。だが、没落していく騎士が居たということは、当時はこの問題を理解できない人間も多くいたことを示している。それに気づいたきりやん、えげつない思考力である、天才かな？
取り敢えずなんか媚びとけの精神で話を続ける。

「貴方いい人ですね。騎士様ってくらいだからもっと変な方かと……」
「俺の前で普通に喋れてるキミがよく言うよ」
「まあ、火砲が主流となれば騎士という役職は廃れて名ばかりになるだろうね」
「分かんの？」
「多少は」

　興味津々と言った表情でこちらを見る彼。

　食いついた！！

　再度ガッツポーズを心のなかで決める。利用しない手はない！買い物ついでにそのへんの商人たちの会話を盗み聞きした甲斐があった！

　情報は資産だ。大金はたいてでも買いたい大切な代物だ。王子って立場の彼ならいくらでも持っているだろうが、私はそうはいかない。金にはならないけど、彼と政治的な会話を交わす。これが一番懐に潜り込むのに手っ取り早かった。
思わぬ収穫としては"舞踏会"の開催、日程、目的を知れたことだった。

　表向きはきりやんの嫁探しだが、真のところはまた違うようだ。それについてははぐらかされてしまったが、私としては日程をもらえたのが大きかった。これでドレスはなんとかなりそうだ。

　日が沈む。薄暗いこの廃墟を伸びた影が呑み込んだ。もうそろそろおつかいを済ませて帰ったという体にしとかないと義家族がダルい。
　帰ろうと腰を上げたところを腕を引いて阻まれた。

「こんだけ話したんだから名前くらい教えてよ」
「……A、またなんかあったら声かけて」
「うん、こんなに有意義な会話久々に出来たよ」

　高揚に頬を染めて王族らしからぬ笑顔を浮かべる彼。
思っていたよりもずっとがっしりとしていて、剣だことペンだこを抱えた手のひらが私の掌を掬った。

「またね」

言葉と共に落とされた口づけにしばらく動悸が止まらなかった。