荒船くん、あのね (ページ8)

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幼馴染の話ページ8

『ねえねえ、穂刈くん！
借りてた体操服ドロドロにしちゃった！
でも穂刈くん
わたしみたいな女の子が好きなんでしょ？
許してくれるよね♡』

『穂刈くん… この前のテスト赤点とっちゃった…
あ、ここで「俺が見てやるよ」って言うと
わたしの好感度爆上がりだよ！！！』

『あのね、穂刈くん
わたしお弁当忘れちゃったの…
だから穂刈くんのお弁当７割分けて？
好きな子の喜ぶ顔見たいでしょ？？』

「……こんなところだな、俺の見立てでは」
「クソみてえなギャルゲーだな」

時刻は20時15分、同日の金曜日
場所は変わって荒船隊の隊室

話題は引き続きAのギャル化宣言についてだが
あの宣言は
聞き手によって随分印象が違うらしい

好きな男の好みに合わせようだなんて
Aもなかなか可愛いところがあるじゃないかと
俺は能天気に感心してしまったが
穂刈にしてみれば可愛いどころの話ではないようで

幼馴染の穂刈いわく
Aのギャル化宣言は
おそらく「好きな子のタイプに合わせよ♡」なんて
健気で可愛い動機によるものではない

若干の誤差はあるにしろ
せいぜい「わたしに惚れさせて手下にしたろ」とか
もっと不純で自意識過剰な動機と考えるのが
妥当ではないか、とのことだ

酷い言い草である

そうした穂刈の考えに基づき
今後来そうなAの発言を予想してみると
冒頭のセリフになるわけだ

品行方正、清廉潔白
友達も多く教師ウケも良い優等生

もしAがそんなヒロインだったら
俺も迷わず擁護していたのだろうが
悲しいかな
Aに前述の要素は１つとしてない

変人奇人、奇想天外
あらゆる珍事に周囲を巻き込み
バリエーション豊かな奇行で教師を悩ませる自由人

どう足掻いても擁護のしようがない

いや、しかし、さすがに

「……あいつ、そこまで自意識過剰か？」
「自己肯定感は高いな、異常に」
「……そんなあざといセリフ吐くか？」
「最近目覚めたらしい、田中みな実に」
「好きな子、なんて言うか？」
「少女漫画っ子だぞ、あいつは」

見事な全球打ち返し
完敗である

気まずい沈黙が２人きりの隊室に降りる

重たい空気を破ったのは
蹴破るように開かれた自動ドアの音と
聞き馴染みのある高い声だった

『ねえねえ、穂刈くん！
借りてた体操服ドロドロにしちゃった！
あ、ここで『気にしないぜ』って言うと
わたしの好感度爆上がりだよ！！！』

俺は静かに頭を抱え
穂刈は合掌した