この花を君に

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広臣さんに続いて
のれんをくぐると、
「らっしゃいませー！」という
野太い声が聞こえて驚いた。

店内はもわっとした熱気に包まれていて、
クセのある濃厚なにおいが漂っている。

カウンター席の向こうには
ハチマキを締めたTシャツ姿の男性たちが
汗をかきながらラーメンを作っていて、
その気迫に圧倒された。

この熱気はおそらく
ちらりと見える大きな鍋たちから
発せられているのだろう。

てきぱき働く店員さんたちは
流れるような手さばきでラーメンを作っていて、
すごいなぁと感心する。



ラーメン屋さんに興味津々の私を見て
面白そうに笑いながら、
広臣さんはカウンター席に腰かけた。

隣に座るとカウンターの向かいから
グラスの入った水を差し出されて、
「らっしゃいませ！何にしましょう」と
威勢よく尋ねられる。



「ラーメン2人前、バリカタで。
あと炒飯と餃子1人前ずつ」



メニューも見ず慣れた様子で
店員さんに注文した広臣さんが
グラスに口をつけた。

バリカタという言葉の意味が分からなくて
聞いてみると、
「麺の固さのこと」という答えが返ってくる。



「ここ、福岡に本店があるとんこつラーメン屋で
麺の固さが選べんの。
固めとか柔らかめとか。
とんこつラーメンって麺が細いから
すぐ伸びるんだよね。
だから固めに注文しといた方がいい」

「へー……」

「もし口に合わなかったら
俺の炒飯と餃子食っていいから。
つかこの臭い平気？」

「はい。おいしそうなにおいです」

「なら大丈夫そうだな。
とんこつの臭いダメって奴結構いんだよね」

「そうなんですか？
食欲が刺激されるにおいだと思いますけど」

「おー、さすが岩ちゃんの妹。
まあ、マズイと思ったら無理すんなよ」



相変わらず話し方はぶっきらぼうだけど
広臣さんは紳士的だ。

柔らかそうなコットンの白シャツに
チノパンというシンプルな格好が
体格のよさと端正な顔立ちを引き立たせている。

左腕にはめられた高級そうな腕時計といい
見た目の美しさといい、
周りのお客さんに比べて
広臣さんは明らかに浮いていた。

なのにそんなことは気にした様子もなく、
カウンターに頬杖をついて背中を丸めている。

視線を俯けた横顔が思慮深そうに見えて
仕事のことでも考えているのかなと思っていると
広臣さんは「腹減った」と真逆な言葉を呟いた。

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