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トミーside
原宿で撮影した帰り俺だけ打ち合わせがあって、みんなと別れてタクシーに乗った。天気がいいからいい映像になっているだろう、と考えて肩の力を抜く。あとは相方がおもろくしてくれる。画を想像して満たされた気分になって、スマホを見る気になれず窓の外に目を向けた。
チャンネル登録者数は400万人に迫っていた。日々手ごたえを感じていて。隣には変わらず、カンタがいる。
ト「…ちょ、すいません停めてください!ここで、」
交差点の前で、緩やかにスピードを落としたタクシーの車窓。なにを見るわけでもなく眺めていると、目に飛び込んできたのは見覚えのある女性の姿だった。考えるより先に、体が動いていた。
ト「おつり結構です、」
多めのお金を置いて乗ったばかりのタクシーを降りると、街の不動産屋さんの前でうろうろしている女。
見間違うはずもない。Aだ。
ト「なあ」
人目を気にして声を抑えたせいで、Aは反応しなかった。まあ、仕方ない。
ト「…なあ!」
『っ!』
真後ろから大きな声を出すと、驚いたAがバッとこちらを振り向いた。カッと目を見開いて固まって動かない。その姿を見て、笑いそうになった。元気そうじゃん。
ト「おう。」
『とっ、みながせんぱ、』
驚いて喉が締まったのか、カスカスの声でAがつぶやく。んん、と咳払いしてから、Aがしゃんと姿勢を正して、あの頃の目で見つめ返してきた。緊張と喜びの入り混じった笑顔。
『お久しぶりです!…あの、ご活躍はかねがね、』
ト「あ、俺らのこと知ってんの」
もうはるか昔のかすかな記憶の底に、カンタが死にそうな顔して、Aと別れた、と言った時間が封印されている。大学一年の冬。その顔は、後にも先にも見たことのない唯一の顔で、紛れもなくほんとうのカンタだ。
どっちからとかどういう話の流れで、とかを聞けるような状況ではなく、しかも別れた後も眩しそうな顔して、高校は楽しかった、とか言うからますます聞けなくて。だって絶対まだAのこと好きじゃん。それで、だからつまり、詳しいことは知らない。
そうした理由があるので、Aが今現在の俺ら、今のカンタを知っていることに多少なりとも驚きはした。まあ、不可抗力で、たまたま目にした可能性はあるけど。
つづく
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りい(プロフ) - 個人的に気持ちに余裕がなくて趣味を疎かにしていて、久しぶりに占ツクに来て、まっさきに学パロを拝見しました。社長室さんの小説、やっぱり好きです。素敵な作品を、癒しをありがとうございます! (2019年9月23日 4時) (レス) id: 23552ed598 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - ちひろさん» コメントありがとうございます!素敵な感想、本当に嬉しいです〜ノリノリで描いていったというよりは、すこし苦しみながらできあがっていったので、幸せを感じていただけたことを心から感謝します。ひみつのほうもぼちぼちやっていますのでまた読みにいらしてください〜 (2019年7月27日 22時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ(プロフ) - 完結おめでとうございます!今更ながら、ひみつからきて読ませていただきました。もどかしい青春が詰まっていて、社長室さんの描かれるカンタくんととみなが先輩がたまらなく大好きです。とてつもない幸せに包まれました。ありがとうございます。 (2019年7月26日 11時) (レス) id: 04f6d975f4 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - じょん、さん» コメントありがとうございます!学パロで終わらせておけばよかったのに大風呂敷をひろげて2に続きまして、リアルタイムで呼んでくださった方にはご迷惑をおかけしました…!短編のほうは地道にやりますので、またお暇なときにでも覗いてやってください! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - 名無し9253号さん» お付き合いくださりありがとうございました! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:社長室 | 作成日時:2019年6月5日 11時