・倉子side ページ30
駅前から高架下、立ち飲みの飲み屋が並ぶ路地まで走って、どこにも亮くんはいない。
この辺りを冒険したことがある、というのは本当。いつだったか、お兄ちゃんとヤスくんと来たのだった。だけど決して平気な訳じゃない。あの時も、屯ってる不良に絡まれた。その時は、普段フワフワしてて優しいヤスくんが聞いたことないひっくい声と怖い顔で不良をビビらせてくれて、何事もなく逃げられた。だけど、本当に怖い思いをしたのを今でも覚えている。
酒臭いおじさんや茶髪の不良と目を合わせないようにほとんど息を止めて足をとめずに走り回った。
いちど、商店街に面した路地の入口まで出て呼吸を整える。一気に汗が吹き出して、心臓の跳ねる音と共に頬が紅潮していくのを感じる。
どれほど探したろうか。まだ路地にいるかもしれない。すれ違いで見つけられないのかも、探してないところがあるのかも、あるいは誰かに…
1人は心細い。疲れた体と、人通りの多い商店街でひとり焦る孤独が不安をかきたてて悪い想像にばかり至ってしまう。頭を振って込み上げそうな涙を堪えて顔をあげた。
その時、視界に入った姿。
「あ…」
探してたダウンコートにジーンズ。間違いない。その隣で手を引くのは…
「亮くん！！」
思わず声を上げて駆け寄りその肩をぐっと引き寄せる。
精一杯の勇気を振り絞って驚いた顔で振り向いた男を睨む。たじろぎそうになるのをぐっと堪える。
何か、言わないと。そう思うけど実際はただ少し見上げる形で固まったまま。目を逸らさないだけで必死だった。
その時、亮くんが彼の肩を掴んだ私の袖を引っ張った。
亮「倉子ちゃん、ちゃうねん！よかーまくんは、見た目ヤンキーやけど悪い人ちゃうねん！亮んこと助けてくれてん！」
…え？
亮くんに落とした視線を、また男に向ける。
彼は、ヤンキーて、と苦笑いしつつもほっとしたような顔で笑っていた。
裕「どっくんのお姉ちゃん？よかったやんどっくん！ほら、めっちゃ走って探してくれたんちゃうの？優しいお姉ちゃんやなぁ！」
彼は言うと、亮くんの頭を大きな手で不器用に撫でた。
色白の整った顔に浮かべた表情は、優しい兄の顔のように見えた。
呆気に取られている間に、彼は「じゃあな」と言って立ち去ろうとする。
「…あっ、え、まって！！あの、お礼…！！」
裕「えーてそんなん。どっくんの手しっかり握ったりや？」
言い残して歩いていく背中を、しばらく呆然と見つめていた。
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作者名：らむ倉 | 作成日時：2020年10月23日 23時
