強くたっていい。だろ？【青葉城西】

＊ ページ37

「あ、あの…」

オレンジ君がおずおずと口を開く。


『ん？どしたー？』

「お、お姉さんは今何年生ですか？」

『あ、悪い。自己紹介まだだったよな。私夏瀬A。青城三年。よろしくなー』

「お、俺烏野一年の日向翔陽です！！よ、よろしくお願いしアス！！」

『おー翔ちゃんか。よろしくな』

「お、おおおお！！！」

嬉しそうに両手を握って叫ぶ翔ちゃんに思わず首を傾げる。


「えっと、俺、中学の時友達からそう呼ばれてたんだけど、でも高校入ってから呼ばれたことなくて！！だから嬉しいです！！」

『そうかそうか翔ちゃんお前可愛いなー。青城においで』

「うぇっ！！」

「お前オヤジかよ」

『けいちゃんうるさい』

「…」

『嘘嘘。だからそんな顔で睨むなよ飛雄ちゃん』

お前の友達取ったりしねぇよ。そう言って嗜めるように飛雄ちゃんの方を見る。


「…」

…って潔いほどの無言じゃん。あれ、違った？





〜♪

…と。
突然鳴り響いたのは、スマホの着信音だった。

私か。そう呟きながら画面を見るとお母さんからだった。まぁ、きっと早く帰ってこいという催促だろう。後でかけ直すとして、とりあえず帰り支度を始める。


『んじゃ私帰るわ。けいちゃんサンキュー。飛雄ちゃんと翔ちゃんもじゃあな−』

「おう。気ぃつけてな」

「ウス」

「オス！！肉まんありがとうございました！！」


可愛い後輩達に見送られ、手を振って店を出た。







『とびおちゃん、ねぇ…』

街頭がぼんやりと辺りを照らし出す中、ぽつり呟いた私の声が闇の中にひっそりと溶けていく。


てっきり青城に来るもんだと思っていたけれど。

…きっと、まだ言葉にすらできないんだろう。
それほどまでに中学の時の事は、飛雄ちゃんにとって最早消し去りたい過去であり、絡みついて離れない記憶であるという事。


『…ハァ』

ふと中学の時の事を思い出して、思わずため息が漏れた。
…過ぎた事だからどうでもいい。そう自分に言い聞かせて重くなった足を動かす。


『…早く帰ろう』

そう小さく呟いて、鞄を肩にかけ直した。

何だか無性に幼なじみの顔が見たくなって、

…帰ったら家でもお邪魔しようか。
そんな事を考えながら、制服のポケットに乱暴に手を突っ込んだ。

◇影山飛雄の場合→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す