月が、 ページ37
.
彷徨う私を二宮さんが拾うことはあれど、彷徨う二宮さんを私が探すことはなくて。
浅く息を繰り返しながら夜の街を駆ける。
何度電話を鳴らしても二宮さんは出ない。
私の携帯に残された着信履歴の数だけ、二宮さんはこんな思いをしたんだとやっとわかった。
それでも途切れないように電話を鳴らし続けながら辺りを探し回った私は二宮さんを見つけられずマンションの近くまで戻て来た。
「二宮さん、どこ行ったんだろう…」
もう家の方まで戻ってしまっただろうか。
そうなると一旦翔さんの家に引き返して財布とか持ってこないと行けないよね。
そりゃそう簡単に見つかるもんじゃないか、現実は甘くないな。
そう思いながら翔さんの家へと引き返し始めた私はとある公園の前で足を止めた。
頼りない街灯と月明りに照らされてぼんやり浮かぶ公園。
未だつながらない電話を握りしめて、私は小走りに入り口を通り抜けた。
そこは整備された公園で二宮さんの家の近くにある子供たちの遊び場になる公園とは少し様子が違った。
固められた遊歩道が街灯に浮かんでいる。
道のずっと向こうで輝く月は見えない遊歩道の先を照らしてはくれていなかった。
「…あ！」
誰もいない公園の凪いだ夜の中、私がベンチにその姿を見つけたとき。
その人は膝に腕を乗せて足の間で手を組むようにスマホを握りしめたまま地面を見つめていた。
「っ」
「あ、待って二宮さん！」
私の声に顔を上げたその人は、パッと闇へと駆け出そうとしたけれど。
それだけは絶対にさせまいとその腕をなんとかつかんで引き止めた。
意外にもあっさりと足を止めた二宮さんは私を身体を押して引きはがす。
「……おまえ、鳴らしすぎだろ」
「二宮さんだって鳴らしてたでしょ。お互い様だよ」
いつもみたいに悪態をつく二宮さんに私もまたいつもみたいに言い返した。
悪びれない私にため息を一つ。
それからスマホをパンツのポケットに押し込んだ二宮さんは、猫背の背中をさらに縮こませたまま見上げにくそうに空を仰いだ。
月が、今夜はとてもきれいだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 451人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
橘花(プロフ) - ４章おつかれさまです…！対峙シーン承知しました！機会を待ってますね♪甘いような甘くないような。王子様でもお姫様でもない2人だけが分かる世界、が素敵ですね。言葉は甘くないけど、温度が甘い二宮さんの言葉がたまりません。5章もたのしみにお邪魔します♪ (2019年11月12日 17時) (
レス) id: c96c7aeb8a (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - 橘花さん» あまり頻発するのもよくないんですが、このシーンばかりは流石に多くなりました。大切な位置付けですのでそう言っていただけてよかったです♪NさんMさんの対峙シーンは主人公不在場面のお話なので本編では予定していないのですごめんなさい(>_<)機会があればどこかで! (2019年11月1日 22時) (レス) id: a52d40e8ad (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - はっきりわかったようですね…！ずっとおっしゃっている魔法使い、お姫様、王子様、が一貫して出てきてくれるので、わかりやすくて助かります！二宮さんと松本さんの対峙場面も見れますかね。 (2019年11月1日 19時) (レス) id: c96c7aeb8a (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - 橘花さん» 一連のシーンはNさんの言い回しなんかも考えながら書いたので気に入っていただけてよかったです！おっしゃる通り、みんなにはヒロインも含まれております。少しずつお話は終わりへ向かう感じですが引き続きお付き合いいただければ嬉しいです( ´ ▽ ` ) (2019年10月31日 18時) (レス) id: a52d40e8ad (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - Ｎさん！Ｎさん！！独白すてきでした…。｢水瀬を返せ｣も痺れましたが、その後の憑き物を落とす豹変ぶりが大好きなＮさんでした…！そして｢みんな歪んでる｣というつぶやき的なの答えというか。水瀬ちゃんもやっぱりお話のみんななんですよね。次はＳさんの気持ち…。 (2019年10月30日 21時) (レス) id: c96c7aeb8a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年10月14日 19時
