どくり ページ37
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本日臨時休業。
そんな手作りのボードがかけられたお店の中は温かくてようやく張りつめていた息を吐き出す。
入れ違いに空気を吸い込めばきっとさっきまで相葉さんが料理をしてたんだろうなって思うおいしそうな匂いが肺を満たした。
「水瀬さん、大丈夫……じゃないよね…」
「あ……大丈夫ですよ、もう。すみません相葉さん、お店営業中だったのに」
「ううん、いいのいいの。勝手に押しかけてきたのはニノちゃんだしね」
明るく笑ってくれる相葉さんを見てるだけでなんだか元気が湧いてくるから不思議だ。
まあるい目の奥に心配そうな色を濃く乗せたままそれでも普段通りみたいに笑ってくれている相葉さんはすごく強い人なんだなと思った。
この人のそばにずっといたら、私なんか太陽みたいな存在に焼かれて溶けてしまうかもしれない。
きっと相葉さんの隣に私みたいな女の子は不釣り合いだ。
「あ、ニノちゃん風呂沸いた？」
「沸いたよ。ほら水瀬、入ってこい」
「……お借りします」
「そんな気にしないでいっといで」
ご厚意に甘えっぱなしで申し訳ないけど、ずぶぬれの身体はたぶんこのまんまじゃ確実に風邪をひきそうだからありがたく相葉さんの自宅のお風呂を借りる。
お店の二階にある相葉さんの自宅はシンプルな男の一人暮らしって感じで二宮さんとあんまり変わらないかも…と思ってつい口元が緩む。
あんまり一人でいるといろいろ考えそうだからさっさとシャワーを浴びて湯船につかる。
無心で、とにかく無心で。
そう思ったけど結局無心なんてとても無理で。
脳内で二宮さんが吐き捨てた言葉が再生される。
“誰のものでもないときは俺のもんなんだよ”
……私が二宮さんのもんだとは知らなかった。
なんて、そうじゃなくて。
私を抱きかかえたまま智さんに言い切ってくれた二宮さんはなんというか…こう……。
「……かっこよかった」
そう、格好良かったのだ。
もちろんいつもみたいに顔がいいって話じゃなくて。
お湯で身体が温まったからなのか、心臓がどくりと脈動した。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
