甘く、沈む。《ars/k.n,s.s》 (ページ28)

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傘ページ28

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世間は梅雨入りなんだそうだ。

エレベーターホールの窓から見た空はどんよりと灰色の雲に占拠されていて悲しみに暮れる空の涙が止まることなく流れ続けている。

売店でお昼のお弁当を買っていつものカフェオレを買うために自販機の休憩スペースに向かったら二宮さんがブラックコーヒーの缶を傾けてるところだった。

ちらりと私を見て片手を上げる。

「お疲れ様です」

「おつかれ、これから昼？」

「はい。雨降ってるんで下で買ってきました」

「それがいいよ。俺もさっき下で買ってきた」

二宮さんの指が財布からつまみ上げた硬貨を自販機に滑り込ませる。

いつものカフェオレが落ちてきて、それを私は自分で拾い上げた。

「ありがとうございます。……ところで、さすがに今日は傘持ってますよね」

「持ってるわ。朝から雨降ってたでしょーよ」

「ですよね」

この間は持ってなかったけどね、とは言わずにお釣りを二宮さんに渡す。

この間雨の中私を待っていた二宮さんにあとから傘は？と聞いたら五十％だったから降らないほうにかけてみたとか言ってたからやっぱり二宮さんも降るか降らないかわからないっていう屁理屈に同意しそうなタイプだと思った。

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