【怠惰な王子と元教育係】瞳の邂逅 ２【無償の………】

finale＊忘れない ページ46

Aは念を押すようにそういうと、万が一割れないよう、割られないようひそかにバイアルに魔術を仕込んだ
ラピスの思いを守るように、ラピスの願いを守るように、丁寧に、丁寧にかけた
その間のバイアルを見る瞳はどこ柔らかく、長い付き合いになるベルは少し驚いているようだった

フ「では、失礼した」

ドアノブに手をかけると、今度は振り向くことなく、扉の向こう側につなげた屋敷へと帰っていくのだった





屋敷に踏み入れば、無駄な声のしない、いつもどおりの静かな屋敷
ようやく身を休め、仕事に励める場所に本当の意味でようやく帰ってこられたような気がした
小さく息を吐き出すと、キセルを持ったまま書斎へと進んでいく
人前では遮る煙とにおいも今は遮らず、屋敷中に甘い匂いが広がっていった

フ(あぁ、そういえば………)

足を止め、なんとなく白く冷たい自らの頬を撫でる
そこは帰る前、ラピスにキスをされた場所
その時のぬくもりはすでにないのだが、ふと、なんとなく触れてみたくなったのだ


ラ『ラピス……………A、幸せ、願う』


あの時、無垢な優しい瞳でラピスはそういった
心の底から願うように、祈るように

フ(くくっ、あいつも大概キザな小娘になるやもしれんな)

不敵に、妖艶に笑いながら、頬を撫でていた手をおろし、再び足を進め始める
奇妙な邂逅によって訪れた新たな異質との出会い
有意義な時間ではあったが、いつまでも思い出に浸り続けるAではなく、いつものように淡々の自らの目標のために足を進める

フ(………………まぁ、ことが一段落したらまた会いに行くとするか)

だが、小さな少女とかわした約束は決して忘れない
居心地のいい空間のなか、魔術師は小さく笑い、贈られた思いを手に、進路を保管室へと変更するのだった

―――

エピローグ→←88＊ご執心

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す