9かける9は恋模様

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「この男、覚えてるわよね？」


桔梗さんがカバンの中からファイルを取り出し、そこから1枚の写真を見せた。


「もちろん。通称、久住。覚せい剤取締法違反、偽計業務妨害、殺人、その他諸々の罪に問われていて、いまだに完全黙秘の男」


俺はその男について覚えていることを話した。


「そう。彼が逮捕されて、身元を洗えるものがないか調べてたの。そしたら、船を借りてた」

「船って、伊吹さんと志摩さんが変な夢見させられた船ですよね？」

詳細を話し始めた桔梗さんの言葉を聞き、隣に座る伊吹さんに尋ねると、


「うん。でもそれとは別にもう一隻借りてた」


彼は広げられた資料の中から写真を1枚指さした。


「…え？」

その写真に釘づけになっていると、


「で、その船から一人の女の子が発見された。この子」


志摩さんもその中からある女性の写真を見せてきた。船の中で白いワンピースを着た女性が横たわっている写真だった。


「…拉致ですか？彼女の身元は？」

2枚の写真を見ながら隊長に尋ねると、


「それが、何もないの」


予想だにしない答えが返って来た。


「…は？何もって…」

「久住同様、全部きれいに消えちゃってんのー」

驚く俺の隣で、ブーと唇を突き出す伊吹さん。

「聞き取りは？」

「これも久住と同じで完全黙秘。めちゃくちゃ警戒されてる」

「…完全黙秘って…。じゃあ久住側の人間では？逮捕はしたんですか？」

お手上げ状態といった志摩さんに疑問をぶつける。


すると、


「逮捕するにも彼女が悪事を働いたという証拠がないし、それに恐らく久住側の人間じゃない」


証拠もないのに志摩さんがそう言いきった。


「…物証も上がっていないのに何でそう言いきれるんですか？」
　
「…だって、ねぇ？」

「…ああ」

「何です？」

俺の質問に伊吹さんと志摩さんが顔を見合わせるので、気になっていると、


「病院で詳しく調べたら彼女、性暴力を受けていた形跡があった。体にも痣や傷が数十箇所」


二人が言いにくそうにしていたからか、陣馬さんが代わりに教えてくれた。

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