オリフィスの隙間【Ⅸs Short Stories】 (ページ10)

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目黒蓮ごめん、卒論忙しくてしばらく会えそうにない

それだけ送られてきたのは11月の終わり頃で。

まぁ、頭のよくない君のことだし

頑張ってもらわないと卒業できないし、

まったく、しょうがないんだから。

「……そんなこと、私に断らなくてもいいんだよ」

そう送ろうとして、やめた。

　

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『おーい、鳴海ぃ？』

「あ、はい？」

『いや、だからクリスマスイブのご予定は？』

「何です、セクハラですか？」

『ちげーよ、学報送付の最終チェック。

　悔しいからリア充の順に傾斜負担してやんだよ』

「あー、じゃあ用なしで」

『お前、早上がりの多いより残業で少ないを選んだんだな(笑)』

「仕事は質より量なんですよ」

楽しむ人が楽を見るなんてつまらない、なんて

いつもの自分なら思わないことを思って、ちょっと笑うよね。

クリスマスなんて、学生の時からあんまり関係なかったくせに。

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「あー、さーむいっ」

靴下にスウェットにもこもこの上着まで着ても

煙草を吸いたい気持ちで

結露する窓ガラスを開ける。

「さむ、」

震える手でライターに火をつける。

あぁ、煙草やめようかな

こんな寒い中吸ってるのが馬鹿みたいだから

そう思っても勿体ないから火をつけた分は咥えるけど。

「今夜は、月が綺麗……」

ぽっかりと空に空いた白色の穴みたいに見える。

そう言えば、結局あの子の卒論のテーマは何になったんだろう？

思えば、社会文化学科の卒論で「月の裏側」なんて

テーマになり得るのかしら

今度会ったら聞いてみようか

そう、何の気なしに思って、苦笑い。

今度、ね。

偉いもので、『会えそうにない』って送ったら

それっきりLINEすら寄越してこない。

だから卒論は優しくないんだよ、ってからかいたい気持ちと

LINEの1文すら送れないことある？って面倒な気持ちが責めあってる。

このまま、手放すことだって

できるはずなのにね。

「はぁ……、」

きっと、月の裏側に想いを馳せられる君なら

こんなことで悩むことはないんでしょう？

「……寒いな」

煙草をすり潰す。

ねぇ、少し寒いよ。

蓮君。