＊ ページ20
「なに…あれ…」
動かなくなっていた足はくるりと方向を変えて、また人混みの中を駆け抜ける。
涙が出てしまう前に、早く家に帰りたい。
全速力だった。
「くっ…」
私は一体何を見せられたというのだ。
カップル誕生の瞬間？
いやいや。そんなはずない。
だって相葉くんは私に会いたいってメールくれたんだもん。そんなタイミングでこんな事って…
いや、もしかしたらこれが狙いだった？
遠回しに私のことを振ったの？
俺はこの子と付き合うんだって…って、バカバカ。相葉くんはそんな酷いことをする人じゃない。
けど。キスをしたのは事実だ。この目で見たもん。あの２人はどういう関係なんだろう。
どんな流れであんな…。いや、そんなこと知りたくもない。できれば今は相葉くんとも会いたくないのだ。
＊＊＊＊＊
「ただいま…」
玄関を開けると家の中は真っ暗で。
どうせみんな友達や彼女と花火を観に行っているのだろうと重たい足でリビングに向かった。
すると、縁側に誰かが座っているのを見つけて。
とても見覚えのある猫背だなーなんて思いながら近づくと、その人は振り返って言った。
「…早くない？」
ちょっと驚いた声で、ちょっと眉を歪ませて。
二宮くんはじっと私を見つめた。
「まだ途中でしょうよ、花火」
「…」
「ってか、雅紀誘えたの？」
「…」
そうか。そこから話さなきゃいけないんだ。
でも今は…忘れたい。相葉くんのこと。
「電気も付けないで何してたの？」
思い切り二宮くんの質問をスルーした私は、縁側に腰を下ろしてみる。
すると、隣に居る二宮くんは不思議そうに首を傾げながら私の質問にちゃんと答えを返してくれた。
「…花火。見てた」
「花火？」
「実はここからでも見えるって…知ってた？」
「え！」
そう言われて空を見上げると、遠くの方でキラキラと光りが瞬いて。
会場から見るものに比べたらそれはとても小さいけれど、十分に楽しめるくらいその光はハッキリと夜空に花を咲かせていた。
「本当だ…綺麗に見えるー…」
「さすがに演奏はここまで届かないけどさ、静かな所で見る方が好きだから」
「うん…そうだね」
ってことは二宮くん、彼女という存在は居ないってことか…。
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作者名：ミト
| 作成日時：2017年8月10日 18時
