氷麗―17― ページ17
電話表面の穴の開いたプレートに指を差し込み、ぐるぐるとプレートを回している
音「黒電話って、そうやってかけるんですね」
『現代っ子の代表みたいな台詞ね。ダイヤルを回すって言うのよ』
音「へぇ」
現代っ子……A先輩とそんなに年が離れていないような気もするけど
その後、電話はお母さんに繋がったのか、安藤さんは電話越しの相手と話し始めた
安「……今?ちょっと遠いところにおる……ハンバーグかぁ、ええなぁ」
阿鳥先輩曰く、電話の声は記憶の再生でしかないらしい
安藤さんは現世で行った会話を繰り返しているだけなのだ
安「あんな、オカン。俺……オカンの金、盗ってもうた」
安藤さんはそう告白した後、電話の向こうの声を聞いて一瞬目を見開いた
そして、すぐにその瞳からポロポロと涙が零れ落ちる
安「なんや、バレとったんか……今から帰る……すぐ帰るでな。ハンバーグ作って待っとってな」
そっと受話器を置いた安藤さんは、すぐに部屋を出て行こうと立ち上がった
音「どちらへ?」
安「実家に帰るんだよ」
音「生きてるんですか!?」
安「あぁ、土の中だけど」
『だったら早く帰りなさい。……母親が、待ってるんでしょ』
安「あぁ……このままだと窒息死しちまう。迷惑かけたなお嬢さん、じゃぁな!」
音「行ってらっしゃいませ、安藤様」
安藤さんは、大きく頷いてから部屋を出て行った
彼が実際に実家に帰れる保証はない
安藤さんが関わってしまったのは、人を生き埋めにするような連中だ
それでも、最後に見せた彼の晴れ晴れしい表情に、少し期待してみたくなる
A先輩はそんな安藤さんを見て、彼が急いで出て行く後姿を見ながらふっと笑った
音「Aせんぱ〜い!死んじゃ嫌ですよ〜!」
私はA先輩に抱きついた
『勝手に人を殺さないでくれる?私はこのくらいのことじゃくたばったりしないわよ』
音「いや〜、でも本当に無事で良かったです」
『……でも、助けてくれてありがとう』
音「……ツンデレ……いでででっ!」
A先輩にほっぺをつねられる
痛いけど、なんだか先輩の愛情を感じたような気がした
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作者名:みかん | 作成日時:2019年2月5日 16時