2話 ページ4
病院で簡単な検査を終えて待ち合い室で待っていると名前を呼ばれたので診察室へと向かった。
「失礼します」
医者にそう断ると軽く頷いてくれた。
「実はですね...一星さんの症状なんですが特に異常が見当たらないんです」
「ど、どういうことですか!?」
まふまふが驚いたように立ち上がってハッとしたように座る。
「特異なんです。なので薬も処方出来ませんし、治療の仕様がありません。申し訳ありません」
ただただ呆然としてしまった。
驚いたように慌てるまふまふの声も医者の声も、真っ白なこの部屋も全てが遠くにあるように感じてしまった。
やだよ、忘れたくないのに...。なんで?
現実を直視出来ないからなのか涙の1つも出てこない。
「まふ、迷惑になっちゃうよ。帰ろ?」
「でも!だって...」
「私に出来ることは何かありますか?」
「取り敢えずストレスを掛けないこと、それが最優先です」
「わかりました。失礼しました」
「失礼、しました...」
待ち合い室の席に座るとまふまふは今にも泣きそうな顔でこちらを見た。
真っ赤な目が潤んでいて綺麗にすら感じてしまえる。
「Aは怖くないの?」
「怖いよ。今日天月さんの事を忘れちゃったのもすごく怖くてどうにかなりそうだった。」
「じゃあなんで...!」
「まふがいるから
まふの事は忘れてないから」
「...っ!A、僕は全部覚えてるから。Aとの思い出とかいっぱい!」
「ありがとう」
───
家に帰り部屋の扉を締めるといろんな感情が渦を巻いて涙が止まらなくなった。
「...やだっ、なんで思い出せないの...!このまま無くなるなんてあんまりだよ...っ!」
床に作った涙は嘲るように私を写した。このまま狂ってしまいそうだ。
でも、まふまふの前で弱気になったら私以上に彼は心配する。
だから強くいなきゃいけないんだよ。
まふまふにはずっと、変わらないで笑っていてほしいから。
私のヒーローに泣き顔は似合わないんだ。真っ白で汚れのない純粋なヒーローには。
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作者名:水羽 | 作成日時:2019年8月21日 22時