1話 ページ3
「ねえ、1つ質問いいかな?Aちゃんはまふくんのことは覚えてるっぽいけどどうしてかな」
私が答えるのを戸惑っている間にまふが説明してくれた。
「さっき話してたんだけど記憶が無くなってるのがここ最近の4ヶ月くらいのことなんだよね」
天月さんは納得したように頷いた。
「成る程。僕と知り合ったのがちょうど4ヶ月くらい前くらいだったもんね」
「す、すみません。何も思い出せなくて」
「んーん。いいの。記憶が戻ったらまた遊んでよ!」
「ありがとうございます。」
頭を下げると天月さんは慌てて顔を上げるように言ってくれた。
きっと優しい人なんだよね。なんで忘れてしまったんだろ、こんな素敵な人のことを。
「あのさ天月君。これからAを連れて病院に行こうと思ったんだけど、ついてくる?」
少し考えて天月さんは首を横に振った。
「勿論僕も...と、言いたいけどあんまりずかずか入り込んじゃ悪いから今日は帰るね」
困ったように笑う天月さんを見て思わず自分が嫌になった。
「何か分かったら連絡頂戴」
「OK。ありがとう」
帰り際に天月さんが手を振ってくれたので思わず振り返すとパッと笑顔になってくれたので少し気持ちが晴れた気がした。
「さて、天月君も帰ったことだし病院行こ!このままじゃ何したら良いかもわからないからね」
「まふもついてくるの?」
「当たり前でしょ。記憶が無くなるなんてビックリするし、傍にいさせて」
本当に良くできた幼なじみだと思う。
なんでこんな素敵な人間がモテないのか不思議でしょうがない。
「ありがとう。準備してくるから待ってて」
部屋に入ると先程まで覚えていたものがどこかに抜け落ちたように無くなっていることに恐怖を覚えた。
この部屋の新しいものは自分にとって未知でしかなかった。物に対する記憶はほとんど失っていないはずなのに。
「...怖い、な」
なんて呟いても誰も聞いてはくれないのだ。
静かな部屋に射す光がやけに眩しく感じられた。
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作者名:水羽 | 作成日時:2019年8月21日 22時