15話 ページ17
「「いただきます」」
美味しそうにご飯を頬張って目を輝かせるまふまふ。
彼の何気ない一挙手一投足に胸をときめかせる私はなんて惨めなんだろう。
でも、それも今日で終わり。失恋予定だからね。
「美味しい？」
「うん！美味しい！」
「良かった」
ご飯粒をつけてても絵になるなあ...なんて彼を見れば見るほど恋に落ちていくのが嫌で早めに席を立った。
部屋に戻って今までのノートを見返すと胸がきゅうっと締め付けられるのがわかった。
「...ま、ふ？」
部屋を覗いて声を掛けると振り返って「何？」と人の良さそうな笑みを浮かべる
男の人。
ああ、忘れてしまったんだ。何か伝えようとしていたはずなのに、彼の名前も今何を言おうとしていたのかもわからないや。
不思議と頭は回っていて、ただただ時間だけがそこにある。
「...なんでもない」
そう言って不思議そうな顔をする彼を無視して部屋を出た。
「そっか。何も思い出せないのか。」
ふと頭に浮かんだのはとにかく家から出ることだった。
必要最低限の荷物だけもって彼に何も伝えずに家を出る。
「いってきます。そして...
ありがとう」
きっと彼の部屋には扉の音も私の気持ちも届かないから。
道路を歩くといつもと変わらないはずなのに色褪せたような景色が目に映る。
街は私を無視して時間を進めていく。止まった時を歩いて無理してついていく。
足を止めるつもりは無かった。そして自然といつぞやの公園に到着していた。
「変われないんだね、今も、昔も」
空を見るとどんよりとした私の心を移すかのように重く雲が垂れ下がっていた。
もう、疲れたな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 41人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：水羽 | 作成日時：2019年8月21日 22時
