11話 ページ13
朝食を片付けながら今日来る人を必死に思い出していた。
なんで思い出せないんだ。写真だってまふまふを抜いたら彼と一番多く撮っていたのに。
「...そらるさん」
名前を口に出してみても洗剤の泡に溶けるだけで何も生まれてこない。
もう少しで何か思い出せるような気がするのにギリギリのところで出てこない。
そんな葛藤をもう20分も続けているので、皿なんて洗い終わってしまった。
ピンポーンと来客を告げるベルがなった。もしかしたら顔を見たら思い出すかも、なんて淡い期待を持って扉を開ける。
「おはようA。生きてる?」
やっぱりだめだ。思い出せない。
「...生きて、ます」
何故かわからないけど涙が出てきた。
「うわっ。大丈夫?話なら聞くから、ね?」
止まらない涙は安心から来るものだった。可笑しいな、思い出せないから初対面みたいなはずなのに。
───泣き止むまでそらるさんは、私の傍にいて頭を撫でてくれた。
「なんで泣いたの?怖がらせちゃったかな」
「違います。安心?したんですかね...変ですよね、いきなり泣くなんて」
「ううん、安心したなら良いと思う。それだけで来た甲斐があったからな。」
「そらるさんのことは覚えてないのに、安心したんです」
「そっか」
そらるさんは微笑んで手を握ってくれた。
まふまふにされたのを思い出して思わず動揺する。
「どうしたの?」
「あ、いや、まふまふにも同じことされたので...びっくりしただけです」
「ふーん...」
「?」
(まふまふはAの事が好きなのにアタック出来ないんだろうな...。何してんだよ。誰かに取られるぞ)
「なんでもない。Aはまふのこと、どう思ってる?」
「!? た、ただの幼なじみですよ?」
「ホントに?」
「...ホント、ではないです。でも、私が気持ちを伝えたらまふはきっと苦労する」
一旦言葉を切って深呼吸する。
「だからただの幼なじみでいたいんです。それ以上は何も望まないし望めませんよ」
これは宣言だ。まふとは幼なじみでいるという。
だって彼はヒーローだから。私のだけじゃなくて、皆のヒーロー。
「Aと俺は似てるね」
「え?」
「臆病で、今に満足しないといけないっていう義務感抱えてる辺りそっくり」
「それは...」
図星だった。
「伝えないと。遅くなっちゃうよ?間に合わない時だってあるから」
「...はい」
そらるさんの「間に合わない」という言葉は私に重くのしかかった。
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作者名:水羽 | 作成日時:2019年8月21日 22時