第55話 ページ5
『“キノ、お前は自分の秘められた力を制御できない。だからこのような事になってしまったのだ。今後も……お前はその力を操るのは無理だろう”』
『………ちから………？』
涙を溢れさせ、キノは力無い声で言った。
『“私に任せてくれれば、お前はもう深く傷つくことはない。安らかにいられる”』
『………』
スッーーもうひとりのキノが右手を差し出した。
『“この手を取りなさい。そうすれば、お前はもう傷つくことはないし、誰も傷つけないで済む。永遠になーー”』
虚ろな目で、キノは自分自身を見上げた。
ーー……誰も……傷つけない……。
『……』
差し出された透明の手を見つめ、キノは右手をゆっくりと上げた。
もうひとりのキノに笑みが浮かんだ。
指先同士が触れ合いかけたーー
その時
カッッッ!!!
『“！！？”』
『っ！？』
あまりの眩しい光に、思わず目を閉じてしまった。
片目を薄っすら開け、発光する何かを見る。
そこには、まるで手を取らせないとばかりに、赫い石があった。
瞬間、もうひとりのキノが顔を歪ませた。
『“邪魔をする気かーー”』
カッ！さらに光が増した。
『“っーー！！”』
もうひとりのキノは為す術なく消えてしまった。
「消えた！？」
スネイプが思わず叫んだ。
「――いいえ、消えていません。彼女の影の中へ戻っただけです――」
「影だと？」
「――はい。影です――」
―――ずっと影の中に潜んでいたのですね―――
赫い石は光るのをやめると、キノの前にスーッと移動した。
キノは少しだけ顔を上げ、虚ろな目で赫い石を見る。
キノの瞳から光が消えてしまっていた。
『……なんで……ローズから離れたの……？』
キノは赫い石に問いかけた。
『どうして……ローズを守って……くれなかったの……？』
震える声で、赫い石に投げかける。
『継承者の願いはーー絶対じゃないのか！！？』
何も返事をしない赫い石に向かって怒鳴った。
『ローズを生き返らせて！今すぐ！！』
「………」
スネイプはギュッと握り拳を作った。
『生き返らせてよ……お願いだから……！』
震える声で、キノは床に突っ伏して泣き出した。
血に染まった室内で、声をあげる。
「……お嬢様……」
そこへ、ルルが現れた。
悲壮な顔でキノの側へ来た。
「ローズ様を……埋葬いたしましょう」
その言葉に、キノは頭を上げてルルを見上げた。
『……埋葬って……墓のこと……？』
「はい」
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年6月6日 12時
