第54話 ページ4
ゆっくりと、フードを被った頭を上げる。
キノの瞳が不気味に光った。
新しい妻達は鋭い眼光を見てゾッとしたのか、子供達の母親らしき女性達が我が子を呼んで抱き寄せた。
「な、何者なんですの！？ルイ様！ルイ様ー！！」
ひとりの女が叫んだ。
『……よくもローズを……』
静かな声で呟くと、キノから猛烈な風が放たれた。
瞬間、断末魔のような悲鳴があがった。
スネイプは口をギュッと閉じて、飛び散る大量の血飛沫を見つめた。
白い壁に大量の血が、まるでペンキをぶちまけたかのように付着する。
あらゆる場所に噴水のように降り注ぐ血の雨。
勿論、キノも血を浴びた。
ビシャッと、血がキノの頬に付いた。
血を拭うこともなく、妻や子供達がバラバラになっていくのを眺めている。
風が止むと、バタバタと音を立ててバラバラになった人間の肉が床に落ちた。
20数名の人間の原型もわからないほどに、肉の山ができていた。
そこから床にドス黒い真っ赤な血溜まりができていく。
肉山から丸っぽいのが転がり落ち、コロコロとキノの近くで止まった。
推定1歳くらいだろうか。
男の子の生首だった。
キノの冷酷な瞳がそれを捉えると、突然、頭を抱えて座り込んだ。
両手で頭を抑え、苦しそうな呻き声をあげ始めた。
「ど、どうしたんだ？」
スネイプはブラベウスに聞いた。
「――………――」
ブラベウスは何も答えなかった。
じっとキノを見据える。
―――……出てこようとしている―――
目の前で、信じられないことが起きた。
もう一人のキノが背中から出てきたのだ。
背中から出てきた半透明のキノが回り込んで目の前に立った。
『“……ルイは死んだ。残るはキノーーあなたただひとり”』
頭を抑えて蹲るキノに向かって、もうひとりのキノが言った。
『“ローズを殺したのはキノーーあなたなんですよ”』
その言葉に、キノはゆっくりと顔を上げた。
正気に返ったのか、目の前にいる自分を見て驚いている。
『わーー……私が……殺した……のか……？』
半透明越しから見えた肉山を見て、キノは声を震わせた。
もうひとりのキノがニタァと笑い、屈み込んでキノに顔を寄せた。
『“そうだ。お前が殺した。怒りに支配され、我を忘れて何の罪もない女子供をお前がバラバラにした”』
『ぁ…………ぁあ…………！』
今度は、罪の意識がキノを覆っていく。
両手を震わせ、目に涙が溜まっていく。
『な……なんてことをーー私ーー』
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年6月6日 12時
