第41話 ページ41
キノのもう一方の手が、カトリーヌのこめかみに突き刺さっていた。
「きゃああああ！カトリーヌ様ぁ！！」
「キノ！おやめになって！カトリーヌ様はルイ様の一番最初の奥方なのよーー」
『だから？』
「え？」
キノの無感情な表情を見て、マリアはゾッとした。
『私には関係ないわ』
ズブッーー
更にキノの手がこめかみの中へ入っていく。
「んんんーっっ！！！？」
激痛なのか、大量の汗と涙を吹き出し、カトリーヌは叫んだ。
しかし、不思議なことにこめかみに手が刺さっているにも関わらず、血が一滴も出ていない。
「ど……どうなってるの……？」
それを見て、ローズが思わず呟いた。
「キノ、やめなさい」
開け放たれた両扉からルイが入ってきた。
その後ろから先程飛び出していった娘達が様子を伺っている。
『………』
キノは父親を無視して、更にこめかみの奥深くへと手を入れていく。
その間に、カトリーヌは声にならない悲鳴をあげ続けた。
「キノ、その辺にしてあげなさい。彼女を解放するんだ」
ルイは叱ることもせず、淡々とした口調でキノに言った。
『………』
「キノ……あたしは平気だから……もうやめて」
ローズが立ち上がって言った。
『ローズ……でもーー』
ローズの呼びかけにはすぐに反応した。
「卑怯者になりたくないって言ってたじゃない」
『ーーっ……』
その言葉に、カトリーヌのこめかみから手を引き抜き、魔法陣を閉ざした。
カトリーヌはそのまま床に崩折れ、ゲホゲホッ！と咳き込んで泣き崩れた。
すぐにカトリーヌの取り巻き達が駆け寄り、口々に大丈夫か尋ね始めた。
キノはギュッと拳を握り、カトリーヌ達を睨みつけた。
『ローズを傷つけたら、私は容赦しないし許さないから。次はないし、それこそ命の保証はないわよ？』
そう告げると、キノは父親と目も合わせずに出て行った。
すぐさま、ローズも後を追った。
キノは魔法陣で小高い丘に来ていた。
拳を握り締めたまま、怒りを逃がせずにいた。
やり場のない怒りで頭がおかしくなりそうだった。
こんなにキレたのはーーもしかしたら初めてかもしれないと、キノは思った。
自分以上に、ローズが苦しめられているのを見たら、理性が吹っ飛んでしまった。
頭にきすぎて、涙が滲んだ。
その時だった。
「やっぱりここにいたわね」
振り向くと、ローズだった。
ローズはキノを真っ直ぐ見つめている。
そこにはもう、嫌悪と敵意はなかった。
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
